約 1,076,755 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1035.html
第2章 後編 「ティッツァーノ…… ”ちょっと”ってどれくらいだろうか……」 ―――魔法学院の教室は、いわゆる階段教室ってヤツだ。 全て石造りあることが、魔法学院ぽさを演出している。 スクアーロとルイズが中に入っていくと、先にやってきていた生徒たちが一斉に振り向いた。 二人に対する反応は、大きく分けると二種類あった。 嘲笑と好奇である。 明らかに前者が多いのだが、極わずかではあるが興味をもった生徒がいた。 圧倒的多数がくすくすと笑い始める。 その中に、朝に出会った赤い髪の美人… キュルケもいた。 キュルケも笑ってはいたが、微笑みと表現した方がしっくりくる。 そう好意的に解釈していると、手を軽く挙げた。 こちらも笑顔で手を振り返す。 キュルケがさらに笑顔と、投げキッスを返してくれた。 ニョホホ♪ ! ルイズの背中に”鬼の貌”が!……見えた気がする。 鮫とキュルケのやり取りにキュルケの取り巻き達の笑顔が消える。 その光景を見て、少しは溜飲が下がったらしい。(取り巻き達の分だけ) キュルケへの対応は今は不問にされた。今は…。 「…さっきの”挨拶”については、また後でね?」 ……ヤバイってレベルじゃねぇぞ? これ…。 ルイズの席にたどり着くまでは気を抜けない。 二人をくすくす笑う男子生徒には、「パッショーネ謹製」の”ガン”を飛ばす。 こちらの様子を伺う女子生徒には、笑顔と”ammicco(アンミッコ)”をプレゼントして差し上げた。 ammicco(伊:ウィンク) ……なにやら顔を赤くしている男子生徒Aが… 気のせいだ。 うん。気のせいにしよう。 流石にやりすぎたのか、席に着く前に二度ほど怒られた。 良い感じで教室が混沌としてきたぞ! ルイズのため椅子を引く。相変わらず上品に座りなさる。 「…隣に座っても… いけませんよね?」 「わかってるじゃない?」 勝ち誇ったような顔で、”着席は許可しないィィィッ!”と言われた。 スタンド使いの口調になってるぞ? ……オレの影響(せい)か? しぶしぶ床へ直に座る。床というか通路だが、ここ以外は狭すぎる。 …なんかオレ、丸くなってきたよな……。 …異世界にいるせいか? 周りには本当に奇妙な生物… 悪魔や妖魔、バケモノたちが蠢いていた。 窓の外を見ると、教室のドアを通りそうにない使い魔たちがおとなしくお座りしている。 (意外とデカイのがいるな… 小動物サイズが基本だと思っていたが…) ドアから中年女性が入ってきた。 いかにも”魔法を使いますよー!”といった服装である。とてもオサレです。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ――」 シュヴルーズ先生ね… 覚えたぞ。 隣のルイズが俯いている。なんで? 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 教室中が笑いに包まれる。今までで一番大きい爆笑だ。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民連れてくるなよ!」 「そうだ! せめて、仙道でも使える紳士を連れくればよかろうなのだァァ!」 (嗚呼… そういうことか… なんか悪いな、ルイズ。 …仙道て何?) (でもちょいと、からかい過ぎじゃないか? おまえ等…) おにいさん、ブチギレちゃうぞ?と首を鳴らしていると、ルイズが立ち上がった。 「違うわ! きちんと召喚したもの!」 そうだ。しかも異世界からだぞ? スタンド使いだぞ!? スゴイぞー! カッコイイぞー! 「召喚したけど、こいつが来ちゃっただけ!」 ……結構な仰り様だな? 御主人様…。 その後、ルイズはマリコルヌとかいうヤツと罵り合う。ほんとに元気だな。 ルイズ「UREEYYY!」 マリコ「KWAHHHH!」 ……おい、どっちも人間辞めてないか? 不毛な口喧嘩は、シュヴルーズ先生の魔法によって終結した。 しかし、元はといえばこの先生の一言からじゃないか? ……この後、本来の目的”魔法のお勉強”に入っていった。 勉強は好きじゃない。 ……苦手なわけじゃねぇぞ? 「やればできる子ですから」 ティッツァーノ談 だが、ルイズにすれば、今日は”基礎の復習”みたいなもんらしい。 ……頑張って聞いてみる。情報は大切だからな。 魔法は五系統。いま使われてるのは四系統。 金属の加工とかはメイジがやってる。 というか、”科学”に当たる仕事は全てメイジの領分みたいだ。 目の前で『錬金』を見た。確かに魔法だ。 素直に感激した。これでメイジ様々ということが理解できた。 「…ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジ…」 「…私は『トライアングル』ですから…」 御主人様の肘をつんつんとつつく。 授業に集中していたルイズはビクッと体を振るわせる。 「…ッ! 何よ! ビックリするじゃない!(小声)」 「いやな、『スクウェア』とか『トライアングル』って何のことだ? レベルとかランクか?」 「…そうよ。『ドット』、『ライン』、『トライアングル』、『スクウェア』…」 足すことができる数が多いほど強いらしい。 なるほど。 ……”先生”で『トライアングル』か…。 「生徒のレベルってのは、学年ごとにほぼ一緒かい? ルイズは?」 急にルイズは黙ってしまった。 しまった! これは禁句だったか! 「いや、言いたくなければいいんだ。ルイズ…」 「ミス・ヴァリエール! 授業に集中なさい! 使い魔とのお喋りはいつでもできますよ!」 「は、はい! すいませんでした…」 またオレのせいで怒られた。 本当にすまん…。 「それではミス・ヴァリエール。 あなたに名誉挽回のチャンスを与えましょう」 ミス・シュブルーズは机の上にある石ころを指しながら続ける。 「ここの石ころを『錬金』してみてください」 一気に教室が静寂に包まれる。使い魔まで静かになった気がする まるで”止まった時の世界”に入門したみたいだ! ……入門したこと無いけどな。 「やめた方が良いかと。 その方がみんな、幸せになれます」 キュルケが時を動かすと、皆一斉に喋りだす。 「やめろッ! 人間の寿命はどうせ短い 死に急ぐ必要もなかろうッ!」 「こいつは グレートにまいったぜェ…」 「お…恐ろしいッ おれは恐ろしい!」 「安っぽい感情で動いてるんじゃあないッ!」 ……生徒たちの本音はどうやら逆効果のようであった。 すっと立ち上がるルイズ。 「やります」 当然オレはこの少女が周りからの暴言・侮辱を受けた事で、 パニックと敗北と反逆の表情をするだろうと思った。 しかし… 彼女はそのどの表情もしなかった…。 少女は微笑んでいたのだ……。 ただ 平然ともの静かに微笑んでオレを一瞥してから前を見ていた……。 その表情には「光り輝くさわやかさ」さえあるようにオレには感じられた……。 …逆に考えるのよルイズ。 『ヤッちゃってもいいのさ』って考えるのよ。 …今までは失敗しないよう、縮こまっていたわ。 でも、今日は違う! 思い切りイクわッ! だって昨日確かに『サモン・サーヴァント』は成功したもの! すでにッ! ”魔法”は成功しているッ! この事実は誰も否定できないッ! ……思いっきりされてるけどね……。 …きっと今日もできる。 一度じゃ無理かもしれない。 昨日も何度も失敗したわ。 それは認める。 でも成功したもの! 私はやれるッ! もうゼロのルイズなんて誰にも言わせない! 見てなさい! すんごいの錬金してみせる! あの使い魔にも御主人様の凄さを見せ付けてやるわッ! 偉大な御主人様のッ! 華麗なる魔法をッ! る オ オ オ オ オ !! ―――ルイズが教壇に向かうと同時に生徒たちが隠れだした。 「……何してんだ? おい、何で隠れる?」 男子生徒B「…君も早く隠れたほうが良いよ」 「?」 いまいち状況を把握できないでいるとルイズがすでにルーンを唱えていた。 「使い魔のだんな! 窓から離れろーッ!」 先ほど頬を赤く染めていた男子生徒Aが叫ぶ。 教壇で一つ奇跡が起こった。小宇宙大爆発(ビックバン)である。 …そう表現しなければミス・シュヴルーズに申し訳が立たない……。 男子生徒Aのおかげで、爆風の通り道から逃げ、直撃だけは避ける事ができた。 「…スゲーな。 まさか…ルイズがここまでやるとは」 多少の傷はあるが、直撃を受けるより完全にマシだ。 教室に戻るとそこは阿鼻叫喚・地獄絵図だった。 爆発の中心にいたミス・シュヴルーズは……。 ………。 …………。 ………あ、動いてる。 生徒たちはほとんど無傷であったが、それぞれの使い魔が暴れだして手に負えない。 …これを映画化したらハリウッドで大ヒット間違いなし! そんな迫力がある。 あ、小太り(マルコ?マリコ?ま、どうでもいいか…)が大蛇に…。 腹壊すなよ大蛇君……。 グランド・ゼロ(爆心地)にいるゼロのルイズの様子を急いで見に行く。 なんという幸運! 爆発・爆風の被害が一番軽いとこにいた。 服はぼろぼろ、全身は煤で汚れていたが、奇跡的に無傷だ。 近寄り、抱き寄せる。 流石に拒絶はしなかった。 「大丈夫か!? ケガは? 頭打ってないか?」 「だ、大丈夫」 「そうか! 良かった…」 「…良くないわ」 「! やっぱりイテーとこあんのか!?」 「ちょ…」 「ちょ?」 「”ちょっと”失敗しちゃった☆」 「「「「おいッ! ”ちょっと”じゃ無いだろッ! ゼロのルイズッ!」」」」 ルイズとスクアーロ以外の全員が、声を揃えて非難を浴びせる。 ……その通りだ。 今回ばかりは……。 「何が起こったんだァーーーッ!」 「爆発だァーーーッ 近づくなーッ 近づくなーッ」 「危険だーッ なんで教室が爆発するんだァァーー」 他の教室から先生や生徒が騒ぎを嗅ぎ付けてやってくる。 こりゃあ、もう授業どころじゃないな……。 ……オレの御主人様は、”ちょっと”魔法が苦手らしい。 ”ちょっと”(本人談)だけ……。 「『言葉』は自由でもあり、不自由でもある」ってティッツァが言ってたっけ……。 トーキングヘッドの重要性に、今日もまた、気付けたぜ……。 「The Story of the "Clash and Zero"」 第2章 ゼロのルイズッ! 後編終了 To Be Continued ==
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/978.html
雲ひとつ無い空、まさに快晴と呼べる日だったがルイズの心は暗かった。 トリステイン魔法学院から少し離れた草原に黒いローブをまとったメイジたちと使い魔が集まっている。 照りつける太陽が、彼らと同じ数だけの黒い影を作っていた。その中にルイズもいた。 そう今はサモン・サーヴァントの真っ最中。 学生たちは使い魔が現れるたびに、歓声を上げては好き勝手な感想を言い合っている。 ここまで少々手間取った生徒はいても、完全に失敗した生徒はいない。そしてとうとう最後のルイズの番となった。 「最後が『ゼロ』かよ。帰るの遅くなるなコレ」 「ここ危ねーな。離れとこー」 「召喚を失敗するに…おれの『魂』を賭けるぜ」 「グッド」 みんな好き勝手なことを言っている。ルイズはそんな雑音をかき消すように自分に言い聞かせた。 (大丈夫。私にだってできる。『信頼』するのよ自分を) そう『信頼』だ。人が人を選ぶに当たって最も大切なことは『信頼』すること。 それはメイジと使い魔の関係にも言えることだろう、とルイズは思っている。 (自分を信じることもできないメイジに、使い魔も仕えたくないでしょ) ルイズは杖を握る手をさらに強める。そして眼を閉じ、集中力を高めていく。 これから召喚されるのがドラゴンだろうが吸血鬼だろうが平民だろうがそんなことはどうでもいい。いやよくないか。 まぁいいや。私が呼び出す使い魔を私は信頼する。そして使い魔から信頼されるために私は自分を信じる。 身体の奥底から力が湧いてくるのを感じる!眼を見開く!呪文を叫ぶ! 一瞬の静寂 そして爆発 青空に向かって黒煙が昇っていく。 25回目の爆発によりいつもより大きめにできたクレーターの回りから、いつもより大きめの生徒たちの歓声があがる。 「すげぇぇ!今の爆発逆にすごくね!?」 「使い魔が月までぶっ飛ぶこの衝撃!」 「だ…だめだ…恐ろしい…声が出ない…ビビっちまって…ヒッ…息がッ!ヒッ!」 真っ白に燃え尽きてしまった生徒もいるようだ。 (そう簡単に成功しないのぐらい想定範囲内よ。そう!コーラを飲んだらげっぷが出るっていうくらい想定範囲内じゃ!) ルイズは多少動揺しながらも、まだ熱気を帯びている前方のクレーターを見据える。 これ以上草原をぶっ飛ばし環境破壊をするのもためらわれるので、さっき作ったクレーターの上に狙いを定めて、26回目の挑戦をしようと構える。 「ちょっと。ルイズ。あれクレーターの真ん中、何かあるわよ」 後ろから声をかけられ集中力が途切れてしまう。振り向くとキュルケがクレーターの方を指差している。 何かあるって、あの爆発に巻き込まれたらみんなヤムチャになるだろう。常識で考えて。 そう思いながらもよく見てみると、煙と砂ぼこりでまだよく見えないが確かに『何か』がある。 小さな箱のような……いやでもあれ使い魔じゃないだろ。常識で考えて。 「キュルケ。ちょっと取ってきてよアレ」 「なんで私が」 「熱いし。微熱でしょあんた」 「微熱でも熱いものは熱いのよ!それになんであたしがあなたの言うこと聞かなきゃならないのよ!」 「ちっ」 すでに褐色の肌なんだからもうちょっとぐらい焼けてもいいだろうに。常識で(ry それは箱ではなかった。片手にすっぽりと収まる程度の大きさの長方形の物体。 丸みを帯びたラインや曲線を重ねたような装飾。そして金属特有の鈍い銀色の光沢が不思議な雰囲気をかもしだしていた。 しかしそんなことよりもルイズを驚かせたのは、それを触った時熱さを感じなかったことだ。 今ルイズはクレーターの真ん中にいる。一応立ってはいられるが汗が吹き出るのを感じる。 しかしこの物体は触ってもひんやりと冷たかった。 (ただのガラクタではなさそうね……) 「どうしたんです、ミス・ヴァリエール? サモン・サーヴァントが成功したんなら早く契約をしてください」 コルベールから声をかけられ、ルイズは手元から視線をはずした。太陽の光をその禿頭で嫌がらせのように反射してくる。 「これは成功したといえるんでしょうか?」 ルイズは思わず握っていた奇妙な物体をコルベールに見えるように掲げた。 しかしそれはコルベールの後ろにいる他の生徒たちにも見せつけることになってしまったようだ。 「なんだ!?『ゼロ』のルイズがとうとう成功したみたいだぞ!」 「でもなんだあれ……生き物じゃないじゃん(笑い)そこらへんに落ちてたの拾っただけだろ(笑い)」 「さすがは『ゼロ』のルイズ!俺たちに(ry」 (うるさい。あんたたちには聞いてない) ルイズは多少イラっとしつつ無視することに決めた。 コルベールが禿頭をかきながら答える。 「契約の儀式をしてみれば分かるのではないかね?ルーンが出ればそれが使い魔。出なければたまたまそこに落ちていたガラクタだろう」 言われてみればそうだ。ファーストキスから始まる~と昔の偉い人も言っていた。 (もしこれが使い魔だったらどうしよう。箱って……箱が使い魔なんて聞いたことありません!とか言えばやり直しさせてくれるのかな。 いや、どうせ『この使い魔の儀式は神聖で伝統があるから』とかなんとか言うにきまってるわ。でも箱って……いや箱ではないみたいだけど) どうかルーンが出ませんように。そう祈りながら唇を近づける。 ルーンでました。しかもコルベールも見たことないレアなルーンだって。 (逆に考えるのよルイズ!とりあえず留年は免れた。ルーン出てよかったじゃないって考えるのよ) ルイズがなるべくポジティブに考えようとしているところに、回りから容赦ない嘲笑とヤジが飛ぶ。 「はははははははは!本当にアレが使い魔なんだ!」 一番笑っているのはかぜっぴきのマリコ…リヌ?だ。その少し横でキュルケもニヤニヤしながらこっちを見ている。 「君たち。もう教室に戻るから準備をしなさい」 コルベールがなんとかまとめようとしているがなかなか言うことをきかない。 ルイズは短く嘆息すると使い魔?をいろいろいじくってみる。 インテリジェンスソードなんてのもこの世にあるくらいだ。もしかしたらコレも……あ、動いた。 いじくっているうちに物体の上部分(どっちが上か下かもよく分からないが)が横にスライドされるように動いた。 中には小さな突起物がある。その突起物には穴が開いていて、何かがそこから出てくるように思える。 ただのガラクタであって欲しくない。その一心でルイズはさらに調べてみる。 「君たち!いい加減にしなさい!遠足に来てるんじゃないんですよ!使い魔の儀式と言うのは……」 コルベールがまだ何か言っているがルイズはもはや聞いてない。 なにか空気の漏れてる音がする……それにちょっと臭い……あ、ここ押せる…… 「うわッ」 思わず上げたルイズの声に最初に反応したのはキュルケだった。 「燃えてるじゃない!」 あまりにストレートな感想のとおり、ルイズの手から火が吹きだしている。 「ミス・ヴァリエール!?火の魔法を!?」 続いてコルベールも驚きの声を上げる。単に火に驚いたのか、ゼロのルイズが魔法を使っていることに驚いたのかは分からないが。 もちろん最も驚いていたのはルイズだった。使い魔から急にすごい勢いで火が出てきたのだ。 皆の注目がコルベールから再び自分に集まっているのを感じる。 「この火は私の魔法じゃありません。この使い魔から」……そうルイズが言おうとしたとき、声が聞こえた。 それはルイズの背後から聞こえた。本当に背中の、すぐ後ろに立っているんではないかというような場所から。 まるで洞穴の奥底から聞こえてくるような奇妙なくぐもった声。とても人間のとは思えない感情の感じない声。 ルイズはその声の発した言葉の意味をすぐに理解することはできなかった。 だがこの声は危険だということ感じていた! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………… 「おまえ…………『再点火』したな!」 と べ continued・・・・ ?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/938.html
サブ・ゼロの使い魔 第二章 傅く者と裏切る者 ――また、あの夢だった。古びた部屋にいる、誰かになった自分の夢。 だが、今回はいつもと違った。ルイズがその夢を知覚したと同時に、全ての霧はざあっという音と共に消え去り――そしてその瞬間、ルイズは部屋にいる男達のことをまるで遥か昔から知っているように理解していた。 後ろのソファに座って仲良く話している二人・・・ソルベとジェラート。 椅子に座ってテーブルの上の変な物体を叩いている男・・・メローネ。 椅子の背に手を置いて彼の肩越しにそれを覗き込んでいるのは、イルーゾォ。 立ったまま壁に背を預けて本を読んでいるリゾットは、たまにこちらを見てはやれやれといった顔をしている。 そして先ほどから二人して自分に怒鳴り続けているのはホルマジオとプロシュート。 二人がかりの説教を喰らっている自分は・・・そう、ギアッチョだった。 「ギアッチョッ!何度言ったら分かるんだてめーッ!!」 プロシュートが上半身を乗り出して怒鳴っている。 「しょーがねーなぁぁぁ これで何冊目だっつーんだよギアッチョさんよォォ」 右手に持った本だったものの残骸をバンバンと叩きながらホルマジオもプロシュートに加勢するが、当のギアッチョはどこ吹く風で受け流す。 ・・・というか全く聞いていない。 「何で3ページで打ち切りになるんだよォォォ~~~ッ!! ナメてんのかオレをッ!!クソッ!クソッ!!まそっぷって何だ!バカにしやがって!!」 イルーゾォが呆れた顔でプロシュート達を見る。 「だから言ったじゃあないか・・・ギアッチョにだけは物を貸すなってよォー」 「そのくらい諦めるんだな オレなんてパソコンを破壊されてるんだぜ」 同じく顔を上げたメローネはそう言って首を振った。ソルベとジェラートはそんな彼らをニヤニヤ笑いながら眺めている。 「外野は黙ってろッ!今日という今日は許さねぇぜギアッチョ!」 「仲間に対する敬意ってもんが足りねーんじゃあねーか?オイ」 プロシュート達の怒りは全く収まらないようだった。 「やれやれ・・・ お前達・・・その辺にしておけ そんなことをいくら言おうがギアッチョには通じないことぐらい知っているだろう」 パタンと本を閉じて、リゾットがリーダーらしく彼らを制止する。 プロシュートとホルマジオは「甘いぜリゾット」という視線を彼に向けるが、リゾットが続けて「ギアッチョ、お前は弁償しておけ」と言ったのを聞いてとりあえずその場は収めることにした。ギアッチョはその言葉に不満げな表情で財布を出し―― ――場面が飛んだ。 ギアッチョの前には古びた扉がある。決まったリズムでそれを叩くと、少ししてから軋んだ音を立てて扉が開いた。 「仕事は終わったぜ、リゾット」 扉を開けたリゾットにそう報告して、ギアッチョは中に入る。 彼に続いてメローネが入ってきたのを確認して、リゾットは彼らにねぎらいの言葉をかけた。 「・・・ま、今回もくだらねー仕事だったがよォォ どうせやるならもう少し面白みのあるやつを回してもらいてぇもんだ」 とギアッチョが言えば、 「簡単なのに越したことはないさ・・・ こんなはした金で命を捨てたくはないからな」 タッグを組んでいたメローネがそう答える。ギアッチョはフンと鼻を鳴らすとどっかりと椅子に腰を落とした。 と、ウヒャヒャヒャヒャという聞き慣れた笑い声が場に響き、ギアッチョ達は声を発した男に目を向ける。 ホルマジオはイルーゾォと机を挟んで向かい合っていた。 二人の横にはプロシュートが陣取り、奥のソファには相変わらずソルベとジェラートが座っている。 そして彼ら全員の視線が集まっているのは、テーブルの上にあるチェス盤だった。 ホルマジオは盤からイルーゾォに視線を移して言い放つ。 「チェックメイトだ オレの勝ちだぜイルーゾォ!」 「バ・・・バカな・・・ただのポーンなんかにィィィ!」 イルーゾォが信じられないという顔で叫ぶ。 「クハハハハハハッ!分かってねェーなァァ チェスって奴をよォォー! 駒の強さなんてもんは所詮ここの使い方一つだぜェェ~」 ホルマジオは人差し指で自分の頭をトントンと叩きながら言った。 「クッ・・・クソッ!再戦だ!もう一度やらせろ!」 「ダメだね ほら!とっとと賭け金をよこしなよイルーゾォよォ~!」 イルーゾォの願いをホルマジオはあっさり跳ね除けた。イルーゾォはしばらくの間「再戦の拒否は許可しないィィィー!」等と叫んでいたが、結局彼のスタンド、リトル・フィートにガッシリ押さえ込まれて財布から二割増しで金を抜き取られていた。 「やれやれ どきなイルーゾォ オレが仇をとってやるよ・・・なぁに、ボードゲームは得意なんだぜ」 メローネが自信たっぷりに椅子に座り、 速攻で敗北した。 部屋の隅で頭を抱えているメローネを尻目にギアッチョが挑み、敗北。プロシュートが挑み、敗北。ソルベが挑みジェラートが挑み・・・ 敗北。敗北。敗北。 「てめーイカサマやってんじゃねーだろーなァァーー!!」 「何逆ギレしてんだオイ!しょぉぉがねーなァァアァ!」 度重なる敗北についにギアッチョがブチ切れた。 その瞬間、今がチャンスとばかりにプロシュートがホルマジオを蹴っ飛ばし、そのスキにソルベとジェラートが彼に飛び掛り、イルーゾォが一瞬でその財布を奪い取り、メローネが皆の取り分を計算して分配した。 「ちょっ・・・何やってんだてめーらァァァ!!」 「うるせェェェ!勝負になるかボケッ!!」 七人はギャーギャーと騒ぎ続け、リゾットはそれをいつものことだというような眼で見つめていた。 そしてもう一人、ギアッチョの眼を通してルイズもまた彼らを見つめている。 喧嘩ばかりしているが、ルイズの眼には彼らはとても楽しそうに見えた。 常に四面楚歌で命のやり取りをしているからこそ、きっと彼らは死よりも強い絆で結ばれているのだろう。 バカ騒ぎを続ける彼らを、ルイズの心は羨ましそうに見つめていた。 そうしてルイズの夢はいくつもの場面を映し出す。しかしその内容は、徐々に不穏の色を帯びて来た。 場面が過ぎる度に、自分達の理不尽な待遇に、彼らのボスに対する不満は高まって行くのだった。 そして幾度目かの場面転換の後――ついにそれは起こった。 ドンドンドンドンドンドンッ!!! アジトの扉が猛烈に叩かれる。中で待機をしていたギアッチョとメローネ、そしてリゾットとプロシュートは一斉にスタンドを発現させた。 「おいッ!!開けろ・・・!!大変なんだよ!!ジェラートが殺されたッ!!」 「リゾットッ!!オレだ、ホルマジオだッ!!早くここを開けろォォォ!!」 決められたノックをしないことにリゾット達は不審を抱いていたが、その声はどう聞いてもイルーゾォとホルマジオだ。そして彼らが口にした言葉は、彼らにとってこれ以上なく衝撃的なものだった。 プロシュートのザ・グレイトフル・デッドを使って扉を開ける。最初に転がり込んできたイルーゾォの襟首を、ギアッチョが強引に掴んで引き上げた。 「てめーイルーゾォ!!タチの悪い冗談はやめろッ!!」 ギアッチョが人を殺しかねない剣幕で怒鳴る。しかしイルーゾォは苦渋に満ちた顔で答えた。 「嘘じゃない・・・!!『罰』と書かれた紙を身体に貼り付けて・・・ッ!!」 サイレントの魔法がかかったかのように、その場は静まり返った。 ――・・・そんな・・・嘘・・・ ルイズは崩れ落ちそうになった。勿論、今はリプレイされるギアッチョの幻に宿るただの意識である彼女には不可能なことであったが。 ギアッチョの仲間は、リーダーを除き全てが死んだ・・・それは理解しているはずだった。 しかしギアッチョを通して幾つもの場面を共有した今、ルイズに彼らの死を無関心に眺めることなど出来るはずがない。 だがそんな彼女の気持ちなど一顧だにせず、場面は無情に進んで行く。 ジェラートは自宅のソファで、恐怖に顔を引き攣らせて絶命していた。 「ジェラート・・・おいジェラートッ!!」 プロシュートがジェラートを揺さぶる。リゾットは彼の肩を掴んでそれを止めた。 「やめろ・・・プロシュート ・・・ジェラートはもう死んでいる」 「クソッたれがッ!!」 プロシュートは怒りを吐き捨てて立ち上がった。逆にメローネは、その場にがっくりと膝を落とす。 「・・・ボスだ・・・ボスの正体を探ったことがバレて・・・・・・」 ギアッチョは唇を噛んで怒りを耐えていた。ギリギリと音がするほど噛まれた唇からは、彼らの心を代弁するかのように血が流れている。 「・・・ホルマジオ イルーゾォ ソルベはどこだ?」 リゾットが二人に向き直るが、彼らは俯いたまま黙って首を横に振った。 「クソッ・・・!お前達・・・ソルベを探せ!!」 リゾットは焦燥感も露に叫んだ。 そして場面はまた一つ飛ぶ。 ギアッチョ達はアジトに集合していた。彼らの足元の床には、七十サント四方程の箱が数えて三十六個転がっている。 その箱にはガラスのケースに額縁を嵌めたようなものが入っていて、その中に何か気持ちの悪いものが、 ――・・・そんな 彼らは最後の一つまで開封して、やっとそれが何かに気付いた。 ――やめて ・・・いや、解ってはいたが・・・気付かない振りをしていた。彼らが送られてきた順にそれらを並べてみると、 ――お願いだからもうやめて・・・! 三十六個に斬り分けられた、輪切りのソルベが、 ――あぁあぁああああああぁああああッ!!! ルイズはいっそ気絶してしまえたらどんなに楽だろうかと思った。 しかし今はただギアッチョを通して彼の過去を見ている「意識」だけの状態であるルイズには、気絶どころか顔を覆うことも背けることも出来ず・・・彼らの為にただ涙を流すことすら出来なかった。 しかし、眼前の場面は冷徹なまでに滞りなく流れ続ける。自分達を嘲笑うかのように警告の道具としてソルベを惨殺したボスに、誰もが怒りを必死に押し殺す中―― バギャアッ!!! ギアッチョの我慢は限界を超えた。 「あの野郎ォオオォオォォオオーーーーーーーーーーーッ!!!!」 テーブルを叩き割り、ギアッチョは天地が割れんばかりの声で叫んだ。 「殺すッ!!!オレが殺してやるッ!!!」 額縁を梱包していた箱を踏み破りながら、ギアッチョは悪鬼の如き凶相で扉へと向かう。 プロシュートが「早まるんじゃあねぇ!」と手を伸ばすが、ギアッチョは彼に眼も向けずにその手を払いのけた。 しかし、その先でギアッチョの足がピタリと止まる。扉の前に、リゾットが立ちふさがっていた。 「どけよ・・・リゾット!!」 怒りに沸き立つギアッチョの双眸がリゾットを射抜く。しかしリゾットは充血した両眼でギアッチョの視線を真っ向から受け止めた。 「リーダーとして・・・ギアッチョ、お前を行かせるわけにはいかない」 「何故だッ!!」 ギアッチョは激昂して叫ぶ。 「ええ!?オレ達は一体何年屈辱に耐えてきた!?命を賭けて組織の敵を排除し続けてよォォーー・・・オレ達は文字通りパッショーネに命を捧げてきたッ!!いつか忠誠が報われる日が来ると信じてなァァ!! それが何なんだこのザマはッ!!オレ達の誇りだけじゃあ飽き足らず、ボスの野郎はソルベとジェラートを無惨に殺し・・・そしてその死まで侮辱したッ!!ここまでされてよォォォー!!一体いつまで耐え続けろっつーんだッ!!」 ギアッチョは怒りに任せてまくし立てた。 「落ち着けギアッチョ・・・! オレは・・・いや、オレ達の誰一人としてこの状況を受け入れている者はいない・・・ だが耐えるんだ!」 リゾットはそう言うと、ギアッチョが何かを言う前に続ける。 「ボスの正体を探ろうとしたんだ・・・オレ達が関わっていようがいまいが、ボスは既に・・・間違いなくオレ達を監視下に置いているはずだ そんな状態で一体何が出来る・・・?刺し違えるどころか、ボスに辿り着くことすら出来ないだろう」 ギアッチョはぐっと言葉を詰まらせる。 「今は伏して耐えるんだ・・・ ボスを倒す『チャンス』が来るまで!」 リゾットの眼は『覚悟』している者の眼だった。ギアッチョは壁を一発猛烈な音を立てて殴りつけると、その拳を震わせながら収めた。 ルイズは今度こそギアッチョの気持ちを理解した。彼女の耳には、食堂でギアッチョが叫んだ言葉が木霊していた。 『オレ達の命は安かねェんだッ!!!』 これだけの言葉に、一体どれほどの無念が込められていたのだろう。 ルイズにはもう結末が分かっている。リゾットの部下は、全員が死亡する。 ならば例え彼がボスに打ち勝ったとしても、一体その勝利にはどれほどの意味があるのだろうか? 仲間を失くし、ボスを殺して生きる目的までも失ってしまったならば、リゾットはもはや一人で生きていけるのだろうか。 そして、殆ど全ての仲間を失って唯一人生きながらえてしまったギアッチョは? 己が立っていた足場を失い、拠り所にしていた支えも失い――彼は一体何を思って生きているのだろうか。彼は自分を命の恩人だと言う。だけどそれは本心からのものなのだろうか?自分はギアッチョに、ただ終わることすら許されない痛みを与え続けているだけなのではないか―― ルイズには何も解らない。ただひたすら辛く、そして悲しかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/786.html
ああ困った困った困った弱った弱った。 「表面的には焦っていても、心の中では常にクール」がモットーのルイズちゃんだけど、こればっかりは本当にまいった。 「おいおい後がつかえてるんだぞ。さっさと終わらせろよゼロのルイズ」 「あなたのせいで私達まで使い魔無しなんてことになったらどうするのよ」 「そうだぞ、くだらないワガママ言うなよ。立派な眼鏡じゃないか」 ここでまたドカン。笑われるかわいそうなわたし。 眼鏡。眼鏡かあ。眼鏡だよねぇ。眼鏡、眼鏡。うううう。ああああ。 くうう……慌てるな。落ち着くんだ。 冷静になるんだルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。名前長っ。 「うるさいわね! あなた達ちょっと黙ってなさいよ!」 とりあえず怒鳴り返すポーズだけはとっておくとして……さてどうする。 今はまだ笑う余裕があるけど、これ以上時間を使えばまわりの空気も悪くなるでしょ。 そうなればわたしが悪者みたくなって、皆に責められる。 この後いまいちな使い魔召喚した子達はきっと 「ルイズの馬鹿が時間使いすぎやがって。おかげで俺までとばっちりさ」 「まったく、ゼロのルイズにも困ったもんだな」 ダメダメダメ。これはダメ。 なんで他人の使い魔までわたしの責任になるのよ。おかしいでしょ。 だいたいここでゴネきって再召喚させてもらうとしても、この眼鏡が出てくるまですでに呪文詠唱十七回。 十八回目も手ごたえ無しで爆発、こりゃ当然失敗したと思ったらそこにはこの眼鏡。 やり直すとしても……まあ、普通に考えて成功する見込み無し。 「さっさと契約しなさい、ミス・ヴァリエール。眼鏡の何が悪いというのかね」 この毛髪ツンドラ地帯、人事だと思っていい加減なこと言ってくれるじゃないの。 「眼鏡は悪くない」 だったらあんたの使い魔にしなさいよザ・眼鏡。 「そろそろあきらめろよゼロのルイズ!」 みんな静かに。考えがまとまらない。笑うなマリコルヌ。肉屋に卸すよ。 グラモンの馬鹿、いちいち隣の縦ロールにささやいてるんじゃない。 グラモンの阿呆、その好奇心丸出しな顔を引っ込めなさい。 うううう。どうしようかなあ。眼鏡で我慢すべきかなあ。嫌だなあ。でも使い魔無しよりは眼鏡かなあ。 フレームをつついてみた。レンズをノックして、蝶番を何回か開閉させてみる。 実体が無かったり、この世界には無い物で作られていたり、わたしに話しかけてきたりすることはない。 まごう事なき、混じりっ気無し、誰が見ても正真正銘、ただの眼鏡だ。 コレ本当に眼鏡以外の何者でもないね。なのにわたしの使い魔だってさ。困ったね。あはははははは。 もうどうにでもなれとダメモトで眼鏡をかけてみた。 お、ちょっとすごいな。かなり遠くの方までしっかり見える。 べつに目ぇ悪いわけじゃないんだけど、それでも効くもんねぇ。 ただ見た目だけじゃなく、実際的なところにも気を配ってるってわけか。 すごいねコレ。眼鏡なんだけどね。あははははははははははははははははははは。 ……なんかもうどうでもよくなってきた。疲れた。 人間であり、貴族でもあるこのわたしが、なぜ眼鏡ごときにここまで気を遣わなければならないのか。 もういいよ。眼鏡眼鏡。みんなのばーかばーか。うんこうんこ。 「ミス・ヴァリエール。気は済んだかのな」 「……はい」 なるだけ情けない顔にはならないよう振り向いたけど、あたしの努力は結局無駄に終わった。 どれだけ頑張ったっていつもこうなる。 もう本当にね。みなさんかんべんしてください。 眼鏡を額の上に押しやって、肉眼で皆を見る。普通だ。 眼鏡を鼻の上に据え付けて、レンズ越しで皆を見る。普通に全裸だ。 お前もうコラいんちき眼鏡いい加減にしなさいよ。 「どうしたのかね?」 「いえ、あの」 「気分でも悪いのかね?」 「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいミスタ・コルベール! そこで止まって!」 全裸のまま真顔で近づいてくる人間がいればわたしもビビる。 しかも、その、なんというか、コルベール先生は他の男子に比べて、その……。 ま、まあいいや。意外な人の意外な発見は置いておくとして、問題はこの眼鏡だ。 みんなが「何やってんだこの馬鹿?」って顔でわたしを見ている。 眼鏡をかけると、全裸のみんなが「何やってんだこの馬鹿?」って顔で見ている。馬鹿はあんたらだよ。 何度か繰り返してみたけど、やっぱりこの眼鏡をかけるとおかしなことになる。 これはひょっとして、ただの眼鏡じゃない? それともわたしの頭がおかしくなった? あ、キュルケってばちゃんと下の毛も赤いのね。そりゃそうか。 「ちょっとモンモランシー」 「なによゼロのルイズ」 「あなた、昨日の晩虫に刺されたりしなかった?」 モンモランシーは怪訝な顔で 「何で知ってるの?」 「肩とか?」 「だから何で知ってるのよ」 本物だ……この眼鏡は本物だ。ひょっとしたらわたしはとんでもない物を呼び出してしまったのかもしれないぞ。 あ、キュルケのおっぱいすごい。乳房とかいうべきなのかもしれないけどあえてこう言う。おっぱい。 でかいだけだと思ってたけど大きさだけじゃないわ。大きなおっぱいにありがちな形崩れが全く無い。 トレーニングとかしてんのかな。バストアップの体操とか。 でも努力のしがいもあるよね。あれだけ大きかったらわたしだってするもん。 いいなあキュルケばっかり。おっぱい大きいし、魔法もすごいし。いいなあああ。 「ちょっとルイズ。何よ、人のことじろじろ見て」 「そっちこそ何よキュルケ。なんでわたしがあなたを見るのよ。自意識過剰なんじゃないの」 乳首の色も綺麗な桜色。褐色の肌によく映えること。いいなああああ。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2478.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 一行が町の入り口までやってきたのはそれから二時間後だった。 タバサは近くの岩場に腰を下ろし、本を読んでいた。先ほどの竜がまるでタバサに話しかけるようにして顔を寄せている。 「おまたせ、タバサ。」 キュルケが康一の馬から飛び降りた。 「遅れたけど紹介するわね。あたしの親友、タバサよ。」 本を読んだままのタバサの肩を抱き寄せた。 「こ、こんにちはー」 康一は馬から降りて声をかけてみたが、反応はない。 「無愛想な子ねー」 ルイズはあきれたように言った。 キュルケが康一にずっとくっついたまま離れなかったのでご機嫌ななめである。 「ちょっと無口なだけよ。それにルイズも無愛想さでは負けていないと思うわよ?」 キュルケが軽く受け流すと、ルイズがむっとして睨みつける。 空気が険悪になりそうだったので、ルイズが爆発する前に康一は話題を探した。 「え、えーっと、そういえばルイズは何を買うつもりだったの?」 「・・・あんたにいろいろ買ってあげなくちゃいけないじゃない。杖とか。」 「杖?」 メイジでもない自分に杖などいるのだろうか。 ルイズはコーイチの耳元に口を寄せた。 (あんたの『スタンド』。魔法だってことにしたら都合がいいでしょ?) 「ああ、そっかぁ!」 康一は納得した。 スタンドをおおっぴらに使えないおかげで、ギーシュとの決闘ではひどい目にあった康一である。 杖さえ持っていれば、『スタンド』も『東方式のちょっと変わった魔法』としてみて貰えるかもしれない。 「なに、どういうこと?ダーリンって魔法が使えるわけ?」 キュルケは理解できない様子である。タバサは黙ったまま何も言わない。 「(そっか。康一の『スタンド』のこと、知ってるのわたしだけなんだ。)」 秘密を共有しているようでなんだか嬉しい。 「(そうよ。キュルケが無駄に色気を振りまいたって、所詮は他人だわ。わたしはご主人様なんだもの!)」 自信を取り戻したルイズは、とたんに上機嫌になった。 「たいしたことじゃないわよ。ちょっとあんたにはいえないけど。」 なんて澄まして見せる余裕まである。 キュルケからすると、非常におもしろくない。 康一から聞き出そうとするも、言葉を濁されるから余計である。 ほら、さっさと行くわよ。背を向けるルイズに向かってつぶやいた。 「いいわ。いずれじっくり聞き出してあげるんだから!」 「へぇ!なんだかいろいろなものがおいてあるなぁ~!」 康一はきょろきょろと興味深そうに店の商品を覗き込んでいる。 露店に挟まれた通りは非常ににぎやかで、人でごった返している。 売っているものも、肉や野菜や服などといったよくみるものだけでなく、日本では到底見れないようなものも並んでいる。 ビン詰めの目玉なんかがあったりしたが、あんなの何に使うんだろう。 「ここはトリステインで一番の大通り、ブルドンネ街よ。」 ルイズは心持ち得意げに説明した。 「え?一番の大通り!?」 康一は驚いた。単に近くの街だと思っていたのだ。 「それにしては・・・ちょっと小さい気もするなぁ~」 意外と規模の小さい国なんだろうか。 「なにわけわかんないこと言ってんのよ。ほら『杖』の店はこっちよ!」 ルイズは康一の手を引いた。 「あ、ちょっと待って!あの路地の奥に、『剣』の絵が描かれた看板が見えるんだけど・・・」 康一は薄暗い路地を指差した。 「そうね。武器屋があるんでしょ。それがどうかしたの?」 「いやぁー!ちょっと感動っていうか・・・!」 ゲームでよくあるような武器屋の看板が実際にあるのだ。 うわぁ、やっぱりファンタジーな世界なんだなぁ!と康一はわくわくした。実際の武器屋ってどんな感じなんだろう。 「ちょっと見てくるね!」 康一が走り出すので、ルイズはあわてて追いかける。 「こらー!武器屋になんて行ってどうするのよー!」 「やっぱりダーリンも男の子なのねぇ。」 キュルケとタバサも後を追った。 「おーい、坊主。ここはおもちゃ屋じゃねぇぞ。」 武器屋の店主は、さきほど入ってきた小さな少年に声をかけた。 ちょうど客もおらず、暇だったから構わないのだが、あまりにも目をきらきらさせて店を見回しているので苦笑する。 「あ、ごめんなさい。ぼく、こういう店、初めてきたんですよねー!」 まぁ害もなさそうだから放っておくとしようか。金も持ってなさそうだし。 と、そこへ今度は貴族の小娘が入ってきた。 すかさず店主は腰を低くした。 「いらっしゃいませ貴族様!当店はまっとうな商売をしておりまさ!怪しいものなんてなにも・・・」 「別にこの店に用があるわけじゃないわ。」 もみ手をする店長に、ルイズは興味なさげに返した。 「ほら、コーイチ。行くわよ!」 ルイズが袖を引っ張るが、康一は「もうちょっとだけ!」と壁にかけられている武器にかじりついている。 「(へぇ、ひょっとしてこの坊主は貴族の従者かなにかか。ってことはカモがネギしょってきたのかもしれん。)」 店主はにっこりと笑った。 「なんならお似合いのを見繕いましょうか?」 康一は嬉しそうに振り向いたが、残念そうに首を横に振った。 「ごめんなさい。ぼくって、お金もってないんですよね。」 店主は貴族の小娘を見たが、買い与える気など毛頭なさそうである。 そこに今度は、まぶしいほどの色気がある赤毛の美女と、青髪の娘が入ってきた。こちらも貴族らしい。 「あたしが買ってあげてもよくてよ?」 キュルケが康一に声をかけた。 しかしルイズが立ちはだかる。 「わたしの使い魔に変なものあたえないでよ!それに剣なんか買ってもしょうがないじゃない!」 「いいでしょ。あたしが何を買おうと勝手だし、コーイチが何を貰うのも勝手だわ。」 あのー、と康一が声をかけた。 「剣って杖の代わりにならないの?」 杖はただの棒じゃないから、代わりにはならないけれど・・・とキュルケはあごに人差し指をあてた。 「でも、魔法衛視隊なんかは、大体レイピア形の杖を持ってるわね。それに、傭兵をやってるメイジで、杖の機能を持たせた武器を使ってることはあるらしいわ。」 康一は財布を握っているルイズを見た。 「どうせ買うならそういうのがいいかなぁ~。って思うんだけど・・・高くなるのかな。」 店主がすかさず割り込んだ。 「いえいえ!当店は平民用の武器だけでなく、メイジ様にもぴったりな武器も多数取り揃えておりますですよ!傭兵のお客向きの商品などは、貴族様が使う杖などよりお安くできまさ!」 意地があるので決して口にはしないが、実は康一の治療費やらなにやらで、少し懐が心もとないルイズである。 自分が知っている店は貴族用の高級な店で、かなりの出費を覚悟していただけにその言葉には少し惹かれた。 「ま、まぁコーイチがそんなに欲しいなら、考えないでもないわ。」 ルイズが同意して見せると、店主は「では少々お待ちください!」と奥に引っ込んだ。 あの貴族の小娘たちと従者。関係は良くわからないが、雰囲気は貧乏貴族ではない。 おそらくかなりの金を持っているはず、と店主は睨んだ。 笑顔で一本の長剣を抱えていく。 「こちらなどはどうでしょう。かの高名なシュペー卿の鍛えし大業物!ちょっとお値段は張りますが、鉄を紙のように切り裂くって触れ込みでさぁ!もちろん、お望みのように杖の代わりとしても使えますぜ!」 宝石や金の装飾の散りばめられたいかにもな宝剣である。 「・・・ちなみにそれ、いくらなの?」 「そうですねぇ。本当はエキュー金貨で2500はいただきたいところですが・・・今回は、2000エキュー。新金貨なら2500で結構でさ!」 「2000!?ちょっとした家屋敷が買える値段じゃない!」 「いいものは値が張るものですぜ?命を懸けるものですからねぇ。」 店主がもっともな顔をして言う。 ルイズは顔をしかめた。 「・・・もっと安いのはないわけ?100くらいの。」 「まともな剣を買おうと思えば、少なくとも新金貨で200はしますがね。まぁそこにあるのは一律200ってものでさ。」 店主は店の隅で剣が無造作に束ねられている一角を指差した。 「しかし、貴族様の従者に持たせるには、あのあたりの凡庸なのは少々物足りないと思いますがねぇ。」 すると、突然、ガチャガチャという音とともに声が聞こえてきた。 「誰が凡庸だ、このスットコドッコイの詐欺親父!!このデルフリンガー様をそこらの剣と一緒にするんじゃねーよ!」 一行は驚いて声のするほうを見つめた。 「だいたい、そんなコゾーに持たせるならおしゃぶりのほうがお似合いだぜっ!」 「こ、こらデル公!お前はだまってろ!」 一本の錆びた長剣がカチャカチャと鍔を鳴らしているので、タバサがするりと引き抜いた。 「こら!小娘!勝手に触ってんじゃねぇよ!」 タバサはそんな剣の罵声に耳を貸さず、しばらく見つめてから康一に手渡した。 「インテリジェントソード」 「ま、まさかこの剣がしゃべってるのかぁ~!?」 康一は手に持ってしげしげと剣を眺めた。でもスピーカーはついてないしなぁ。 すると、それまで騒いでいた剣が、突然黙り込んだ。 「・・・おでれーた。おめぇ『使い手』か。」 「『使い手』ってなに?」 当然ながら今まで剣など触った事もない康一である。 「俺の柄を握ってみろ。」 言われるがままに、両手で柄を握ってみる。 すると、康一の左手のルーンが青白く光を放ち始めた。 キュルケが叫んだ。 「だ、ダーリン!手のルーンが光ってるわよ!?」 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/747.html
『メイドの危機・ジョセフの場合』 ジョセフとえらく仲がいいっぽいメイドのシエスタが学院を辞めて、女癖の悪いことで有名なモット伯の館に奉公に行くことになった。 すぐさま馬を飛ばし、モット伯の館に出向くジョセフ。 伯爵は言った。 「そうまで言うならメイドを返してやってもいい。だが交換条件がある。ツェルプストーの家宝である『召喚されし書物』を持ってくることだ」 そういう理由でキュルケの部屋に行こうとしていた使い魔をとっ捕まえた私は、事情聴取を経てその様な経緯を把握したという次第だった。 「とは言ってもねー。平民からしてみたら、貴族の御寵愛に適うという事はある意味出世街道なわけで……」 「そこにシエスタの意思はあるんじゃろか」 私の部屋にて、ベッドに腰掛けた私と毛布に座り込んだジョセフの問答は続く。 「……まあないとも言い辛く……」 「なんじゃったらハーミットパープルでちょっくらシエスタの今の気持ちを読むことも辞さん覚悟じゃが」 言葉を濁そうとしたんだけど、ジョセフにそれが通用しないことは判り切っている。 もし否定的な答えが来れば、ジョセフはすぐさまキュルケの部屋に行くだろう。 そうなればあの色情魔の事だ。交換条件とか何とか言って、ジョセフに色目使ってあんなことやこんなことするに違いない! ジョセフってはじじいのクセに女の子に囲まれてデレーッとかしやがっちゃうから、すぐに色香に負けてあんなことやこんなことを……! 「ほぅらゼロには出来ないようなこともしてあげられるわー」 「ムム!?!?」 「なに想像してんのさ!」 ダメよダメよダメよダメダメダメダメ!!!! 自分の使い魔にツェルプストーの女の匂いがつくだなんてそんな屈辱ないわ!! 頭を下げて「私とジョセフに免じて家宝譲って♪」とお願いすれば、何とかならないかとも思うけど……それだって十分屈辱だわ!! 尻も口も軽いあの女に話題提供とかふざけんなってー話よ! ここで一番いいのは、「あのメイドをジョセフが大人しく諦める」というのが一番円満に収まる選択肢だわ! そうよ、間違いないわ! 「私は使い魔にツェルプストーの女の匂いをつけるのもイヤだし、あのメイドの為にツェルプストーの女に頭を下げたり出来ないの。王宮の勅使にケンカ売ったらヴァリエールもただじゃすまないんだから、それくらいは弁えて貰いたいわ」 つまり動くことは許しません! とキッパリと宣言する。 私も由緒正しいヴァリエール公爵家の末娘なんだから、使い魔の我侭で家に迷惑を掛けるわけにも行かない。そこはちゃーんと納得させなくちゃならないわ! 「判ったらさっさと寝る! 明日も早いんだから!」 そう言うと私は制服を脱ぎ捨てて寝巻きに着替え、ランプを消して眠りに付く。 ――寝つきのいい私は、使い魔がこっそりと出て行ったことに気付かなかった。 深夜……とは言え、地球ではまだ日付も変わらない頃合。 今度は馬ではなく、自らの足でジョセフはモット伯の屋敷に近付いていた。 「おいおい相棒、本当にやっちまうのかーぃ? トライアングルメイジっつったらそっちでもかなりの腕利きだっつーことだぜ?」 「黙っとれデル公や。そいつぁ真正面からやった時の話じゃろ?」 背中に背負ったデルフリンガーは、僅かに刀身を鞘から出してジョセフに話しかける。 夜でも魔法の力で煌々とライトアップされている屋敷は、暗闇の中で十分な目印となる。 森の中を駆けていくジョセフの耳に、唸り声を上げて侵入者を威嚇する獣の声が聞こえた。 「むっ……!」 昼に出向いた時に、翼の生えた黒犬が番犬として屋敷をうろついていたのを思い出す。 果たして、獣は時ならぬ侵入者の匂いを辿り、木々の間をすり抜けてこちらへ駆けてくる。 「なかなか鼻が利きよるわい」 「で、どうすんだい相棒。こんな森の中じゃ俺っちはまともに使わせてもらえないぜ?」 ニヤニヤ笑いながら他人事のように言うデルフリンガーに、ジョセフはにまりと笑うと、近くに伸びている木から小枝を一本手折る。 「剣が使えないなら、別のモノを武器にするんじゃよ」 指の間で鋭く回転させて逆手に握る枝に、波紋を流し込む。 程無くして侵入者を発見した翼犬が、ジョセフ目掛けて一気に距離を詰め飛び掛る! しかしジョセフは焦りの色の欠片さえ見せず、飛び掛ってきた犬から身をかわすのではなく、反対に犬目掛けてラリアットをぶち込む! 人間に比べて遥かに強靭な筋肉を持つはずの翼犬は、まるで丸太でもぶつけられたかのように吹き飛び、木の幹にしたたかに身体を打ち付ける。 ジョセフはそのまま俊敏に犬へ飛び掛り、獲物を背後から抱え込むような姿勢に移行し…… 「フンッ!」 波紋を流した枝を、犬の脊髄に突き刺し、ずぶりずぶりと回転させる。 「アフッ! ウォ……」 断末魔の叫びは、体内に流れた波紋がそれを塞き止める。 やがて命の抜け落ちた亡骸を地面に落とすが、翼犬は一匹だけではない。仲間の敵を討たんと、怒りに燃えたもう一匹の翼犬が、にっくきジョセフへと駆け寄ってくる。 「ふむ。今からじゃ手ごろな枝を見繕う余裕はないのう」 余裕綽綽の笑みを浮かべながら、今度は自らの長袖シャツに波紋を流す。 翼の滑空速度も加えた瞬速のタックルは、哀れな侵入者を即座に押し倒し、喉笛を噛み砕くに相応しい動きだった。だが彼(彼女かもしれないが)の不幸は……今夜の老人は獲物ではなく、自らと同じ立場の「狩猟者」であったことだった。 しかし必殺を疑うことなく、翼犬はジョセフの喉目掛けて奔る。ジョセフは慌てる素振りすら見せず……逃げるどころか、自らの腕を襲い来る犬に差し出すかのように拳を繰り出す! 巨大な顎の中へ狙い違わず打ち込まれた腕に穿たれた、肉を食い千切り骨を噛み砕き腕を食らうはずの牙は、しかし……たった一枚の粗末な布さえ破くことは出来ず、反対に布地は牙を捕らえてあらゆる自由を奪ってしまった。 「捕まえたァ、というヤツじゃのう」 そして間髪入れず、ジョセフの空いている手は犬の肋骨を鷲掴みにしてぼきりと外し。出来た隙間から更に無理矢理指先を押し込んで、万力の様な指先は犬の心臓を押し潰した! まるでオーガが戯れに犬を繰り潰したような刻印を胸に残し、同僚の上に落さとれる死骸。 「おでれーた。やるもんじゃねーか相棒」 「せっかくならワイン瓶でも持ってくればもうちょっと楽じゃったな」 ニマリと笑ったジョセフは、今度は道に近い木々の間を抜けていく。 そうしていれば、番犬達が駆け出して行ったのにやっと追いついてきた兵士が一人。ランタン掲げて「またコソ泥の死体を片付けなきゃなんねーのか」とウンザリした顔を見せながら。 音もなくデルフリンガーを抜いたジョセフは、木の幹の陰に身を隠し。足音を殺しながら兵士の後ろに近付いていき……鎧に包まれていない脇腹へ、ずぶりと刀身を沈め、ぐるりと束を回す。 こうやって体内に空気を入れ込まれれば、人間は呆気なくショック死してしまう。 何が起こったのか判らない、という顔で地面に倒れ伏した兵士を、ジョセフは茂みの中に引き入れ。そして再び、悠然とした足取りで屋敷へと向かっていくのだった。 モット伯はその日、執務室で新たなメイドを味見する直前の高揚した気分を満喫していた。 それは上級階級で話題になっている小説を読む直前の気持ちにも似ている。 「ふふふ……あのシエスタとかいうメイド、幼い顔をしているワリには随分と発育のいい身体じゃないか。これは実に楽しみだ……」 今夜はどのような趣向で男も知らない女を花開かせようか。下卑た笑みを、緩んだ口に乗せるのだった。 カン、カン。 「伯爵様、火急の件がこざいまして」 これからの興に思いを馳せていたモット伯は、無粋なノックと、ドアの向こうからの部下の声に現実に引き戻され、不機嫌に眉間を寄せた。 「なんだ」 「邸内に賊が進入している模様です。警備の兵も数人討たれた様子、伯爵様直々に御迎撃頂きたいのですが」 「何!? ええい、高い金で雇っているというのに! 全く平民は何の役にも立たん!」 伯爵の怒りはトライアングルメイジである自分の屋敷に侵入した不届きな賊だけではなく、無能な平民兵達にも向けられていた。 (平民どもは何の役にも立たんくせに貴族の脛ばかり齧りよる! 全く度し難い存在だな!) 歯噛みしながら、杖を手に取り足音も荒く扉に向かう。 そしてドアノブを苛立ちついでに勢い良くひねって扉を開けようとした瞬間―― 見えたのは、見覚えのない老人の姿。誰何の声を掛ける暇さえ与えず、僅かに開いた扉の隙間から、何本もの紫の茨が伯爵に絡みつく! 「なっ!?」 伯爵はすぐさま魔法を唱えようとするが、茨は杖を持つ手首をねじり込み、杖を離させ。そして喉に絡みついた茨が、呪文の詠唱さえ許さなかった。 「あがっ……がっ……!」 そして老人は茨を掴んだまま扉を背で閉める。 捕われた伯爵と捕らえた老人、それは扉を挟んで背中合わせの形となっていた。 「メイジなんぞ高い金で平民に養われてるというのに、魔法使えなかったらなぁんの役にも立たんのう」 楽しげにからかう声が、この世で伯爵が聞いた最期の言葉だった。 老人が、指先で茨を弾いた瞬間。伯爵の魂は、肉体の鎖から抜け落ちていった。 次の日、ジュール・ド・モット伯爵が病死したという知らせが学院にも届いた。 病死と言うのは建前のこと、本当の死因は何者かに首を絞められた挙句、彼の死体に鋭い一太刀が浴びせられていたのだ。 しかしメイジが魔法ではなく平民の用いる武器によって殺害されたとあっては、ドット伯爵家にとって最高に不名誉な事態であった。よって、建前上は病死という扱いになり、それ以上の事件に発展することはなかった。 彼の屋敷に雇われていた使用人はしばらくして新たな奉公先を見つけてそこに住まうことになる。シエスタも学院に戻り、前と変わらない生活を送ることとなった。 しかし内々の捜査が、とある一人の男に辿り着くのは、時間の問題だった―― 「ってことになっちゃうのよ!? ああ、そんなことになったらどうしよう……ヴァリエール家自体にも捜査の手が伸びてしまうわ!? あああああ、お父様やお母様に姉様にちいねえさま、何と言い訳すればいいの!? 不出来な使い魔を持った私でごめんなさい!!?」 何やらあらぬ想像を張り巡らせて一人でベッドでのたうち回る主人を、使い魔とその剣はぽかーんと見つめる以外になかった。 「なあ相棒。お前んとこの主人っていつもあんなんか?」 「……いやー、普段はあんなんじゃないんじゃがのう。パニック起こしたみたいじゃな」 ヒソヒソと内緒話を交わす一人と一振り。 ちなみに「私は使い魔にツェルプストーの女の匂いをつけるのもイヤだし~」と宣言したところからルイズの想像……というか妄想の産物である。 「それにしても一体ルイズん中でわしはどんなバケモノっつーことになっとるんじゃ?」 口の端々から漏れた妄想の欠片を繋ぎ合わせれば、ジョセフ一人いればハルケギニア全土を征服出来るかのような勢いである。 そろそろ誰か医者でも連れてきた方がいいんじゃないか、とジョセフとデルフリンガーが真剣に相談し始めた頃、ルイズはベッドで頭を抱えてうつ伏せに丸まってた身体を、バネ仕掛けのように凄まじい勢いで跳ね上がらせた。 「……しょうがないわ……ここは一時の恥を偲んで、キュルケに一緒にお願いに行ってあげるわ! ヴァリエールの家自体に悪辣非道な捜査の手を伸ばすくらいなら、たかがちょっとくらいの噂くらいどうってことないわよ!」 いや。それは勝手な想像で。幾らなんでもそこまでせんわい。というジョセフのか細い抗議を敢然と無視したルイズは、ジョセフの襟首引っつかんでキュルケの部屋に向かった。 結局、キュルケは「今度の虚無の曜日にジョセフと城下町に買い物に行く」という条件で家宝の書物を譲ることに賛同し、タバサのシルフィードで早速モット伯の屋敷へと向かう。 無事に学院に戻ることになったシエスタは、「きっとジョセフさんが『私の為』にミス・ヴァリエール達を動かしてくれたんだ」と、勘違いをすることになったが、あながち間違っていないのでジョセフは特に訂正もしなかった。 結果、ほっぺにチュを受けてジョセフはご満悦だった。 さてここで最もワリを食った我らがゼロのルイズ。 彼女の機嫌を取る為、しばらくジョセフは懸命に犬として振舞いまくったとさ。 『暗殺無用』・完 タイトル変わってる? 気にすんなよ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/995.html
場面はあくまで無情に過ぎる。彼らの発言から、あれから二年の月日が流れ去ろうとしていることがわかった。 リゾット達のチームは、あの事件以来まさに首輪がつけられたような状態になっている。 ギアッチョの眼を通して、彼らに常に何人もの監視がついていることにルイズも気付いていた。 誰も口には出さないが、彼らの中ではどんどん絶望と諦念が大きくなってきている。 それが彼らの一つ目の変化だった。そして二つ目の変化は、チームに新入りが入ったことだった。 ペッシという名のその新入りは、その物腰から察するにおそらくはまだ少年の域を脱しない年齢の男で・・・ おそらくというのは彼には首と呼べる部分がどうにも確認出来ないため輪郭で年齢を判断しにくいからなのだが、とにかく彼はスタンド使いで、その才能を買われてリゾットの暗殺チームに配属されたらしい。 しかし彼は生来の気の弱さで、いつまで経っても見習いの域を脱しないのだった。彼は今、アジトの地べたに座らされてプロシュートに説教を喰らっている。 「プロシュートの奴・・・すっかりペッシの教育係みてーになってるな オレはてっきりお前の出番かと思ってたがよォー」 椅子に腰掛けたイルーゾォはそう言って隣に座るギアッチョに首を向けた。 「ああ? オレは他人に説教くれてやるような人間じゃあねーぜ」 両足をテーブルに投げ出すと、ギアッチョはそう言って鼻を鳴らす。 「説教なんてのは他人を気にかける心のある奴がするもんだからな・・・」 オレはそんな出来た人間じゃあねえと自嘲気味に笑って、ギアッチョはペッシに眼を向ける。イルーゾォはそんなギアッチョからすっと目線を外すと、 「オレはそうは思わないがな」 と冗談めかした笑いに乗せて呟いた。プロシュートとペッシを見ていた彼にその言葉は届かなかったようだが、彼女に・・・ルイズにだけはしっかりと聞こえていた。 ――わたしも・・・そう思うわ イルーゾォ・・・ ギアッチョは自分やキュルケ達を幾度となく怒ってくれた。ルイズは気付いている。それは教師達のようなゼロの自分への嘲りを含んだ怒りなどではない、人を侮辱するところのない真の怒りだった。 そしてそれは、合図のノックを足音代わりにやって来た。イルーゾォが開けた扉から入ってきたリゾットはまず周囲を見渡し、そこに全員が揃っていることを確認してから―― 「ボスに『娘』がいるという情報が入った」 自らの口で、終焉の開幕を告げた。 彼らがどんな反応をしたか、いちいち記す必要があるだろうか?ソルベとジェラートの仇を討つ為、己とチームの誇りの為、そして自分達が頂点に立つ為・・・彼らは命を賭けると『覚悟』した。 ――ルイズは奇妙な浮遊感を感じて周りを見る。自分の視点がどんどん上昇して行き、そして彼女の精神は蝉が羽化するように、徐々に・・・そしてやがて完全にギアッチョから離脱した。 おかしい、とルイズは感じた。彼女はこの夢はギアッチョが見ている彼の過去だと考えていたが、しかしそれではこの光景は一体どういうことだ? ブルドンネ街よりも広い、黒っぽい地面の大通り。両脇には見たこともないデザインの建物が立ち並び、その路傍には2.5メイル前後ほどの恐らく鉄製のオブジェがまばらに点在し・・・そしてその内のいくつかが派手に炎上している。 いつの間にか彼女はそれを上空から眺めていた。 上空?ギアッチョはレビテーションもフライも使えはしないはずだ。ならばこの視点は、一体誰のものだ? どういうことかと考え始めたルイズの思考は、直後彼女の視界に飛び込んできた情報によって綺麗に吹き飛んだ。 ――ホルマジオ・・・!! 炎上する大通りの真ん中に立っているのは、他ならぬホルマジオだった。 血塗れの顔と身体は炎に焼け爛れ、思わず眼を背けたくなるほど痛々しい姿になっている。1メイルほどの距離を開けて、彼はルイズと同年代ほどの背格好の少年と対峙していた。 「来い・・・・・・・・・ナランチャ・・・・・・・・・」 ホルマジオは少年に向けてそう言い放ち、そして数秒の沈黙が走り。 「『リトル・フィィィーート』!!」 「うおりゃあああああっ!!」 ――早撃ちの軍配は、少年に上がった。 「しょおおがねーなああああ~~ たかが『買い物』来んのもよォォーー 楽じゃあ・・・なかっただろ?え?ナランチャ・・・」 ホルマジオは二、三歩よろよろと後じさるとなんとか言葉を吐き出し、 「これからはもっと・・・・・・・・・ しんどくなるぜ・・・・・・てめーらは・・・・・・」 最期にニヤリと笑いながら、豪快な音を立てて倒れた。 ――始・・・まった・・・ 彼らの平穏を、ルイズは出来ればずっと見ていたかった。だがもう遅い。 彼らの死は今始まった。夢であるが故にルイズは眼を覆うことも耳を塞ぐことも出来ず、そしてそんな彼女を嘲笑うかのようにルイズの夢は次の場面を映し出す。 どこかの遺跡だろうか。あちこちが破損し壊落している石造りの建造物、そこにイルーゾォはいた。彼は敵のスタンドに首根っこを掴まれ、石壁にその身体を押し付けられている。ルイズの意識が彼を認識した直後、 「うわあああああああああああ!!」 恐怖一色に染められた断末魔を上げて、イルーゾォは見るも無残に「溶けて」死んだ。 ――いやぁああぁああッ!! ルイズは誰にも届かない声で叫ぶ。どうして、どうしてこんな殺され方をしなければならなかった?彼は確かに暗殺者だった。 だけど彼の心にはいつも仲間達への想いがあった。 彼は決して、このような哀れな死を遂げるべき外道などではなかった――! あまりにも残酷なイルーゾォの死に様に、しかしルイズが心の整理をつけるより早く。彼女を嘲笑うかのように、場面はあっさりと次へ飛んだ。 車輪のついた、長方形の長大な箱。プロシュートはその箱と車輪の隙間に引っかかるようにして横たわっている。 全身からはおびただしい量の血が流れ、その片足は有り得ない方向にひしゃげていた。 そして彼に重なって横たわるプロシュートのスタンドは、その指が、身体が、頭が、止まることなく崩れ続けている。誰がどう見ようが、瀕死だった。 「栄光は・・・・・・」 プロシュートはうわ言のように言葉を紡ぐ。 「・・・・・・おまえに・・・ ・・・ある・・・・・・ぞ・・・」 彼は正に死のその間際まで、ペッシのことを忘れなかった。「オレはお前を見守っている」と、彼はそう言った。 瀕死のプロシュートには、スタンドの発現は恐らく相当身体に負担をかけているはずだ。しかし一人戦うペッシの為に、 そしてチームの栄光の為に、彼は決してスタンドを解除しなかった。 だが、ペッシは―― 「このままで・・・・・・・・・・・・ガブッ・・・」 口から大量に血を吐きながら、彼は己を重症に追い込んだ男を睨む。 「済ませるわけにはいかねえ・・・・・・・・・」 ペッシの手には、拳よりも少し大きな程度の亀が掴まれていた。 どうやら男にとって相当に大事なものらしいそれを殺すことで、ペッシはせめてもの意趣返しをするつもりらしかった。男がペッシを見据え、 「堕ちたな・・・・・・ただのゲス野郎の心に・・・・・・・・・・・・!!」 そう言うと同時に、ペッシは亀を振りかぶり―― 「何をやったってしくじるもんなのさ ゲス野郎はな」 一瞬の駆け引きの後、男の無数の拳撃を受けてペッシの身体はバラバラに分解されて吹っ飛んだ。そしてプロシュートは偉大に、ペッシは惨めに。 二人は殆ど同時に、だがその『誇り』に天と地ほどの差を空けて死んだ。 ルイズはもはや声もなく彼らの死を見つめる。己の心をひとかけらでも言葉にすれば、全てが堰を切って溢れ出しそうで。 彼女は震える心を必死で抑えて、動かない眼で彼らを見つめ続けた。 作業的な間隔で、場面は次に移る。ルイズの眼前に新たに映し出された 場所は、どうやら先ほど見た長く大きな箱を収容する施設であるようだった。 収容された箱から出てきたメローネの、 「聞こえてるぜギアッチョ!」 という言葉にルイズはビクリと反応する。ギアッチョの名前は、今最も聞きたくなかった。彼が死ぬ場面を見てしまうなど、ルイズにはこれ以上ない拷問である。 しかし彼に先んじて命を落とす運命にあるのはメローネのようだった。 ギアッチョと会話をしているらしい彼に、ボトリと焼け焦げた蛇が落ちる。 スタンドの性質上、彼は常に安全な場所にいる。追われる身である「奴ら」が自分の位置を把握することなど不可能、ましてや攻撃を受けることなど有り得ない――そう油断していた彼の肩の上に、いきなり敵意を剥き出しにした蛇が落ちてきたのである。 彼が無様に取り乱すのも無理からぬことであった。 「あの『新入りの能力』ッ!おれのベイビィ・フェイスの残骸をひいいいいいいいいいいいいッ!!」 彼は絶叫し、そしてその大きく開いた口から覗いた舌に焼ける毒蛇は喰らいついた。 ――・・・・・・・・・もう・・・・・・やめて・・・ 一体誰に言えばいいのだろう。分からないままに、ルイズは言葉を絞り出した。 残った7人の内、5人が死んでしまった。たとえリゾットがボスを倒したとしても、もうあのアジトに彼らの喧騒が戻ることはない。二度と。永久に。 ――お願いだから・・・もうやめて・・・! あらゆることが手遅れであると知りながら、ルイズはもはや過ぎ去った残像に、虚しく呼びかけ続けた。 そして彼女の夢は、とうとう彼の使い魔を映し出す。 ――・・・ギアッチョ・・・!! 粉々に破壊された像のそばを、運河が流れていた。そのほとりに、白銀のスーツを着た男が立っている。つま先から頭までを余さず覆うそのスーツから覗く顔は、紛れもなくギアッチョのものだった。 「とどめだッ!ミスターーーーーーーーッ」 ギアッチョがそう叫ぶと同時に、彼に対峙していた男の全身から血が吹き出した。 ミスタと呼ばれた男はしかし、大きく仰け反りながら呟く。 「ああ・・・確かに『覚悟』は出来たぜ・・・ジョルノ」 「見ッ・・・・・・見えねえ・・・・・・・・・ 血・・・血が凍りついて・・・固まっ・・・!!」 ミスタの血しぶきが顔面にかかり、それは一瞬で凍結してギアッチョの視界を奪った。 ドンドンドンドンッ!! ミスタがかざした鉄の器具が火を噴く。どうやらあれは小さな銃のようだ・・・が、ルイズにそんなことを気にしている余裕はなかった。 前が見えずにヘルメットを引っかいている間に、ミスタの銃撃によってダメージこそないもののギアッチョはどんどん後方へ押されて行き、とどめの一発を足に喰らって彼は全体重を掛けて後ろへ仰け反り―― ドスッ!! 彼の延髄に、槍のように彫刻された鉄柱が突き刺さった。ルイズは思わずひっと声を上げそうになるが、幸いにも致命傷には至らなかったらしく、数分後には死ぬのだと分かっていつつも、彼女はほっと胸をなでおろした。 「おまえ・・・このオレに・・・・・・ 『覚悟』はあんのか・・・と・・・ 言ったが見してやるぜ」 そう言ってミスタはギアッチョを見据える。今にも失血死しそうなほどに血に塗れた身体だが、その眼光だけは獣のようにギラついていた。 「ええ・・・おい 見せてやるよ」 ようやく前が見えるようになったギアッチョは、ミスタの姿を見た瞬間彼の意図に気付いた。 「ただしお前にもしてもらうぜッ!! ブチ砕かれてあの世に旅立つってェェ覚悟をだがなああああああああ~~~~~ッ!!」 「やばい・・・こいつを引っこ抜かなくてはッ!!」 野郎、このままオレを死ぬまでのけぞらせる気だッ!ギアッチョは必死に鉄柱に手を伸ばすが、 ガァーン!! ミスタの銃弾によってその手は簡単に弾かれる。そしてミスタの更なる連射によって、ギアッチョの身体はどんどん仰け反って行く。 「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」 しかし、それと同時に彼の放った弾丸が彼自身にどんどん跳ね返り始めた。 「突っ切るしかねえッ!真の『覚悟』はここからだッ!『ピストルズ』ッ!てめーらも腹をくくれッ!!」 跳弾によってミスタの身体は至る所が弾け始めるが、彼は構わず銃を乱射する。 「おおおおおおおおおおおおおおお!!」 そして、ミスタがついに崩れ落ちたその瞬間、ギアッチョの首から大量の血が吹き出した。 ――ギアッチョ!! ルイズは耐え切れずに叫ぶ。しかしギアッチョはギリギリのところで生きていた。 「違・・・う・・・な・・・ ・・・ガブッ! 『覚悟』の強さが・・・・・・ ・・・・・・『上』・・・・・・なのは・・・ オレの・・・・・・方だぜ・・・グイード・ミスタ・・・」 瀕死の状態で、ギアッチョはなんとかそう口にする。 「ここまで・・・オレを追い込んだのはミスタ・・・ 敬意を表して・・・ やる・・・だが・・・・・・今度・・・覚悟を決めてギリギリのところで 吹き出す『血』を利用するのは・・・ オレの方だ・・・ ミスタ」 そう言ったギアッチョの後頭部は、吹き出した血が既にガッチリと凍って完璧なストッパーになっていた。その直後、未だ宙を舞っていた最後の弾丸がついに完璧な角度で跳ね返り―― 「頭にッ!勝ったァーーーーーッ!!」 ミスタの額に突き刺さった。 「!! う!? 傷が・・・!?」 しかしその瞬間、額の弾痕は完全に消え去り 「な・・・・・・!!」 いつのまにか、ミスタを抱えてその後ろに金髪の少年が立っていた。 「ミスタ・・・ あなたの『覚悟』は・・・この登りゆく朝日よりも明るい輝きで『道』を照らしている」 「なんだってエエェェェエエェ!!?」 グシャグシャグシャドグシャアアッ!!! 「うぐええッ!!」 ズン!!と鉄柱がギアッチョの喉を突き破り。彼は万感の無念と己を打ち破った彼らの『覚悟』へのひとかけらの賞賛と共に、事切れた。 ――あ・・・あぁぁああ・・・ッ!! ギアッチョが『覚悟』というものに拘る訳を、ルイズは理解した気がした。 しかし今ルイズの中に渦巻いている果てしない悲しみは、そんな理解を紙のように吹き飛ばす。これは過去だ、ただの夢だと自分に言い聞かせるが、彼の壮絶な死に様はそんな逃避を許してはくれなかった。ルイズはギアッチョの名を、まるで壊れた蓄音機のように何度も何度も叫び続けた。 そして場面は、次へ進む。 ――・・・・・・・・え・・・? その異変に、ルイズは思わず我に返る。これはギアッチョの夢のはずだ。ならばどうして先がある?どうして、この夢は新しい風景を映し出す・・・? そうか、とルイズは思った。そもそも途中からおかしかったのだ。ギアッチョが知るはずのない光景を見ていたことが。 ギアッチョ自身の死に様を、遠くから見つめていたことが。誰かの意図なのか、それともこれは何かの奇跡なのか? そんなルイズの思案をよそに、眼前の過去は展開していく。 遠くに館と海の見える岩場。そこにいたのは、やはり彼だった。 ――・・・・・・そ・・・んな・・・・・・リゾット・・・ リゾットは血まみれで倒れている。傍目から見ても、治癒は絶望的だった。 そんな彼の傍らに腰を落とし、一人の男が彼を見下ろしている。 リゾットはもはや焦点の定まらない眼で男を見返していた。 「ついに・・・オレ・・・は・・・ つか・・・んだ・・・・・・ あんたの正体を・・・オレは・・・」 正体。彼らがこの言葉を使う時、それはとりもなおさずボスのことを意味する。 リゾットは今、「あんたの正体」と言った。つまり彼を見下ろすこの男こそが、他でもないボス自身・・・!男・・・いや、もはやボスと言うべきか。 ボスは今ルイズに背中を向けている。後ろから見る限りその身体には傷一つついていないが、異常なまでに苦しげな呼吸をし続けていることから察するとリゾットとの戦いでボスもまた相当なダメージを負ったと考えていいはずだ。 「最期に顔を・・・見せ てくれ・・・ 逆光で よく・・・見えない 顔を・・・」 片膝をついて荒い呼吸を繰り返すボスにリゾットがそう懇願するが、 「それ以上・・・・・・ここでその会話をすることは許さない・・・リゾット・ネエロ」 彼はそれを冷たく跳ね除けた。片手に持っていたリゾットの足首を投げ捨てて、ボスは苦しげに呼吸を続ける。 「おまえは自分がここまでやれたことを 暗殺チームのリーダーとして、『誇り』にして死んでいくべきだ・・・ あの世でおまえの部下達も納得することだろう」 そう言ってから、ボスは自分の身体から奪った「鉄分」を戻せば潔くとどめを刺してやろうとリゾットに取引を持ちかけた。 もうすぐここにギアッチョ達を殺した連中がやってくる。そいつらの前で次第に惨めに死んでいくのは屈辱的ではないか?今ならこのボスが直々に名誉ある死を与えてやろう。 そんなボスの交渉に、リゾットは聞き取れない声で何かを呟く。 「よく聞こえないぞ・・・・・・ すぐに『鉄分』を戻すのだ・・・リゾット・ネエロ」 ぼそぼそと何かを呟き続けるリゾットの口に、ボスが耳を近づける。 「ひとりでは・・・ 死なねえっ・・・・・・ 言ったんだ・・・」 その言葉に、ボスはバッとリゾットの顔に眼を向け、そして彼の決死の『覚悟』を秘めた赤眼にようやく気付いた。 「今度はオレが・・・利用する番だ 『エアロスミス』を・・・ くらえ・・・・・・!!」 リゾットがそう言うと同時に、ボスの後ろから無数の弾丸が発射された。 ホルマジオの命を奪ったスタンド――エアロスミスだった。 しかし、一瞬の後に全身から鮮血を吹き出したのは、ボスではなくリゾットだった。 最期の一瞬、彼は何を考えていたのだろう。真っ赤に充血したその眼からは、もはやいかなる感情も読み取ることは出来ない。リゾットは被弾の衝撃にガクンと身体を震わせると、一言も発することなく息絶えた。 ――・・・そんな・・・・・・・・・そんな・・・! どうしてエアロスミスとリゾットを結ぶ射線上にいるボスが無傷なのか?どうしてエアロスミスがボスを撃ったのか?そんなことはどうでもよかった。ルイズの心を埋め尽くした事実はたった一つ。リゾットが死んだ。それだけだった。 あの穏やかなリーダーが、冷徹な表情の下で何よりも仲間のことを大切に考えていたリゾットが、死んだ。チームの最後の一人が――殺された。彼のチームは、消えてなくなった。 ――・・・・・・こんな・・・ことって・・・・・・!! 絶望に打ち震えるルイズをよそに、世界は白く染まり始める。白いインクを垂らした ように始まった白化は加速度的に進行し、 「しかし・・・くそ・・・ みごとだ リゾット・ネエロ・・・・・・・・・」 一人呟くボスの声を最後に、ルイズの夢は完全に白に閉ざされた。 「いやぁああぁああああああああッ!!!」 自分自身の悲鳴で、ルイズは跳ね起きた。 「・・・ぁあっ・・・!・・・っはぁ・・・はぁ・・・ッ!」 窓の外は、未だ双月が輝いていた。窓から差し込む月の光を眺めながら、 ルイズは徐々に今まで見ていた夢の事を思い出してゆく。 そうだ。 心地のいい夢だった。 ギアッチョと仲間達の思い出。いつまでも見ていたかった思い出・・・。 だけどジェラートが死んで、ソルベが死んで・・・ギアッチョ達が反逆して。 そして、死んだ。 全員死んだ。 リゾットのチームは、全滅した。 「・・・・・・全滅・・・した・・・・・・」 ルイズの口から、我知らずその言葉がこぼれ出た。そしてそれと同時に、彼女の鳶色の瞳からはぼろぼろと涙が溢れてくる。 「・・・うっ・・・うう・・・・・・!・・・こんなの・・・・うっく・・・・・・こんなの酷すぎる・・・!」 ルイズは肩を震わせて泣いている。ルイズが彼らを知ったのはほんの数時間前のことだ。だがその数時間で、ルイズは彼らと無数の喜怒哀楽を 共有した。もはやルイズにとって、彼らはただの他人などでは断じてない。 だからこそ、彼らの死はルイズに果てしない痛みを負わせた。 ふっと部屋が明るくなる。それに気付いたルイズが顔を上げると、ギアッチョがランプをいじっていた。ルイズの視線に答えるように、彼はルイズに眼を向ける。 「・・・『見た』・・・みてーだな ルイズ・・・てめーも」 夢を共有していたわけか、とギアッチョは呟いた。もはやこの程度のことで、彼は驚かないようになっていた。 「っ・・・・・・どうして・・・っく・・・そんなに・・・冷静でいられるの・・・?」 涙のせいで何度もしゃくりあげながら、ルイズはギアッチョを見る。 「・・・っく・・・ひっく・・・・・・ こんなのってない・・・!」 何か言葉を出す度に、ルイズの涙は量を増してこぼれ続けた。 「・・・っう・・・どうして・・・こんな酷い死に方をしなきゃならなかったの・・・!?」 プライドも忘れて泣きじゃくる彼女に、ギアッチョは冷たく言葉を返す。 「人殺しにゃあ似合いの末路だ」 ゆっくりとルイズに近づくと、ギアッチョは彼女を見下ろして続けた。 「マトモに死ねる奴のほうが珍しい・・・オレらの世界ではな」 ギアッチョは達観したかのような物言いをするが、そんな世界などとは勿論無縁に生きてきたルイズに彼らの死を同じように受け入れられるはずもない。 彼らの名誉一つない惨めな死を、納得出来るはずもない。 「そんなのっ・・・ ・・・うっく・・・そんなのおかしいわ・・・!」 ルイズはぶんぶんと首を振る。彼女の頬を伝う涙が、雫となって宙を舞った。 ギアッチョはほんのわずか――長く付き合った者にしか分からない程に―― そして一瞬だけ、困惑したような表情を見せる。それからがしがしと頭を掻くと、ギアッチョはルイズのベッドに腰掛けた。 「・・・ソルベとジェラートは・・・違う」 「・・・・・・違う・・・?」 何が、という部分を省いたギアッチョの言葉に、ルイズは当然疑問を感じる。 ギアッチョはまるで独白するような調子でそれに答えた。 「あいつらは・・・恐らく何も知らないままに 一方的に虐殺された・・・ だがオレ達他のメンバーは違う 真正面から奴らに挑み、力の全てを出し切って戦い、そして死んだ」 ま・・・一部情けない死に様を晒したバカもいたみてーだが、とそこだけ呆れたような口調で言ってから、ギアッチョは真面目な顔に戻って続ける。 「・・・だからオレはあいつらの死を受け入れる オレが嘆き悲しむことは、あいつらの誇りを侮辱することに他ならねーんだ」 ルイズに背中を向けたまま、ギアッチョは言葉を繋いだ。 「他の誰が嘲笑おうと――オレはあいつらの死を誇りに思う」 ギアッチョの言葉はまるで折れることの無い名剣のように、ルイズの心に真っ直ぐに、そして鋭く突き刺さった。 自分は結局、彼らのことなど何も分かっていなかったのだろうか?そう思うとルイズの心は割れんばかりに痛みはじめる。 「・・・だがよォー」 ぽつりと、ギアッチョは呟くように口を開いた。 「ルイズ・・・てめーはそれでいい てめーは泣いてやってくれ」 その言葉に、ルイズははっとギアッチョの背中を見つめる。 「全く救いようのねー人殺し共だがよ・・・ 自分の為に流される涙が一粒でもあるなら人生御の字じゃあねーか」 その言葉に、ルイズの乾きかけた瞳は再び涙を溢れ出させた。 「・・・・・・うん・・・・・・うん・・・・・・っ!」 ルイズは立てた両膝に顔をうずめて泣いた。どうして気付かなかったんだろう。 ギアッチョはこんなにも彼らのことを想っているじゃないか・・・。 ルイズは声を押し殺すのをやめた。彼らの名誉を守り続けるギアッチョの後ろで、彼らの魂の為に、そして何よりギアッチョの為に、ルイズは声を上げて泣いた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2470.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 二年生最強のメイジ。ギーシュ・ド・グラモンが食堂で女の子を苛めていると、平民の少年がそれを止めに入った。 「まちな!」 「何者だ貴様!」 ギーシュがその少年に杖を突きつける。 「てめーみたいな屑に名乗る名はねぇぜ・・・・」 「平民の分際で貴族に楯突く気か・・・?いいだろう。かかってこい!」 「てめーは俺が裁くっ!」 そして始まる決闘。 「この『平民』がぁー!『貴族』様に勝てると思ってんのかぁー!」 ギーシュはゴーレムを作り出し、少年に襲い掛かった。 「オラァ!」 少年が鉄拳を振るうと、ゴーレムは一撃で砕け散った! 「な、なんだとぉー!?」 「なめるなよ?全力を出せ。貴族!!」 「ひ、ひぃぃ!や、やってやるぅ!!」 ギーシュが杖を振るうと、数十体のゴーレムが少年を取り囲んだ! 「げへへ!平民の分際で舐めた口聞いたことを後悔させてやるゥー!!」 少年に襲い掛かるゴーレム達! だが、少年はゴーレムの一体を踏み台にして飛んだ! 「な、なにぃぃー!馬鹿なぁー!」 ギーシュは驚愕した。 少年はギーシュの背後に華麗に着地すると、ギーシュをギロリと睨んだ。 「次はてめーの番だ・・・」 「はひぃぃー!」 ギーシュはあまりの恐怖に失禁して腰を抜かしてしまう。 「右の拳で殴るか左の拳で殴るか、あててみな・・・。」 少年はギーシュを見下ろした。 ギーシュはごくりと唾を飲んだ。 「ひ、一思いに右で・・・やってくれ!」 「NO!NO!NO!」 「ひ・・・左?」 「NO!NO!NO!」 「り・・・りょーほーですかぁー!?」 「YES!YES!YES!」 「もしかしてオラオラですかぁー!?」 「YES!YES!YES!OH!MY!GOD!」 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ――!!」 少年のラッシュでギーシュは「ひでぶ!」と言いながら吹っ飛んだ! 顔面を血だらけにされたギーシュは命乞いをした。 「今まで威張ってすみませんでしたァー!もう平民を馬鹿にしないので、許してくださーい!」 「てめーら貴族が平民を苛めるようなことがあれば、またすぐにボコボコにしてやるからな。」 「わ、わかりましたー!」 ギーシュは土下座をした。 「やれやれだぜ・・・・」 少年はくるりと背を向けた。 「助けていただいて、ありがとうございました!」 苛められていた少女が礼を言うと、 「気にするな・・・」 とだけ言って去っていく。 「ま、まってください!」 少女が叫んだ。 「あなたの・・・あなたのお名前は?」 少年は顔だけを少女に向けて言った。 「俺の名はコーイチ。しがない平民さ・・・」 あれから三日。これが現在平民の間で噂されている決闘の詳細である。 あの決闘を見ていた平民はシエスタだけだった。 シエスタは興奮のままに、平民の仕事仲間に『平民の少年が貴族に勝った』決闘のことを話した。 シエスタから聞いた平民は、またその仲間に聞いた話を伝えていく。その仲間はまた別の仲間に。 「きっと、こうだったのさ・・・!」「・・・だって聞いたわよ!」「・・・だったらしいぜ!」 噂をするうちに膨らんだ想像が付け足されていき、逆にいくつかの情報が抜け落ちていく。 こうして、本人がいない間に、康一は 『弱きを助け、強きを挫く勇者』にされてしまったのだった。 「う、うわぁ・・・」 康一は青くなった。 なんだか、話が無茶苦茶美化されている。 しかも平民の代表みたいにされてるし・・・。 話を聞いていると、まるでその決闘をしたのが承太郎さんだったように思えてくる。 「(少なくともぼくみたいなチビのことじゃないよね。その主人公。)」 厨房にやってきた康一は、集まってきた平民達に取り囲まれ、話ようやくその噂を知ったのだった。 康一は誤解を解こうとした。 「い、いや。そんな大したもんじゃないですよ!実際ぼくだってボコボコにされて、今まで寝てたんですから!」 「でも、ギーシュって貴族に勝ったのは本当なんだろ?」 マルトー親父が尋ねた。 「それは・・・まぁ。そうなんですけど・・・。」 オオオオオオ! 集まってきた平民達がどよめいた。 「しかも素手でぼこぼこにしたって聞いたが?」 「それも、確かにそうなんですが・・・」 オオオオオオオオオ!! 歓声があがる。 「しかもトドメに、その貴族、『ゆるしてください!』って泣いて謝ってきたんだろ?」 「まぁ・・・それもだいたいその通りですけど・・・」 ヒャッホ――――――! 帽子が乱れ飛ぶ。泣き出したり、抱き合ったりしている人もいる。 康一の首にマルトーの毛深い腕が廻される。 「可愛い顔して、おめぇはすごいやつだ!コーイチ!『我らの拳』だ!」 「お、おおげさだなぁ。」 康一は困った。結果的にばれない形になったが、スタンドを使ったわけで、素手だけで倒したわけではない。しかし、 『いやー、実は『スタンド』っていうみなさんの言う『先住魔法』みたいな力を使ったんですよー!』 なんて明るくネタバレした翌日に火あぶりにされたりしたら困る。実に困る。 それになにより、これだけ喜んでいる人たちを悲しませるのは憚られた。 「おおげさなことなんてないぞ!」 マルトーは大きく首を振った。 「俺達平民は、いつもいつも貴族のいいなりにされてるんだ。それに逆らって殺されたやつを、俺は何人も知ってる。」 他の平民も静かに頷いている。 「俺達平民が一人の貴族を倒そうと思ったら、武器を持って数人がかりさ。それだって返り討ちにあうことすらあるんだ。」 それなのに・・・!マルトーはぐっと拳を握り締めた。 「お前は一人で、しかも素手で貴族を倒しちまった!こんな痛快な話聞いたことがない!だからお前は英雄だ!『我らの拳』だ!」 シエスタはその様子を見て嬉しそうに微笑んでいる。 「ちょ、ちょっとシエスタ!なんとかしてよ!それに、その噂すごい誇張してるよね!あいつ別にもらしてなんかなかったし、ゴーレムも7体しかいなかったよ!」 「そのくらい演出の範囲内ですわ。」 シエスタは嬉しげに胸を張った。どうやら話を大きくするのに積極的に関わったらしい。 「俺はお前と知り合えてうれしいぞ!俺がみこんだ男だけあった!コーイチ!俺はおまえの額にキスしてやるぞ!」 とマルトー親父が分厚い唇を近づけてくる。 「うわぁ!マルトーさん!ちょっとまって!キスは・・・!キスはいいからぁー!!」 康一は悲鳴をあげた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2288.html
タバサの部屋から場所を変えてシルフィードのねぐら。 さすがにタバサの部屋の窓にシルフィードが張り付きっ放しというのも目立つし なにより声が結構デカイので移動したわけだが、まだ結論は出ていない。 「で、貸すのか貸さないのかどっちだよ」 一応そう質問したが、ぶっちゃけ貸さないと言っても無理矢理借り受けるつもりでいる。 先にもあったが、ギャングが求める答えにNoは無い。『だが断る』や『絶対にノゥ!』は存在すらしていない。 かと言って、自分が出す答えにはしっかりそれがあるのだから自己中心的極まりないというところだろう。 タバサもいい加減この男がどういうタイプか分かってきているので、どう答えても同じ結果になるんだろうなと思っている。 ……思っているのだが、なんだか釈然としない。 百歩譲って韻竜という事がバレた事は置いておくとしても、隠してきた素性とかをシルフィードは勝手に喋った挙句に『おにいさま』とか呼んでるし。 考えてみれば、今までシルフィードと韻竜として言葉を交わした人間は自分しか居なかった。(緊急避難的にガーゴイルにした事は何回かあるが) 面倒だからとはいえこの事はキュルケにさえ秘密にしている。 それなのに、もう開き直りましたと言わんばかりにプロシュートに喋りまくっている。 で、挙句『おにいさま』だ。 ……これは一体どういう事だろうか?自分を『おねえさま』と呼んでいるのだから、それより年上のプロシュートもそうなるのは分かる。 だが、『おにい《さま》』というのはどういう事だ。譲れるとこ譲っても『おにいさん』だろう。 どういう理屈で戻ったのか分からないが、他人の元使い魔なのに主人の自分と同格の『さま』付けだ。 気に入らないとまではいかないまでも、どこか納得いかない部分がある。 もしかしたら、シルフィードの中でプロシュートの方が順序的に自分より上になりつつあるのかもしれない。 ……これがS.H.I.Tッ!……じゃなくて嫉妬とかいうやつだろうか。 まさかシルフィード相手にそう思うようになるとは露にも思っていなかった。 今なら当時のキュルケの気持ちも少し分かるような気がする。 上機嫌でマシンガントークを繰り出すシルフィードと、どうでもよさそうに生返事を返しているプロシュートを見たが 自分以外の、しかも契約も交わしていない人間にああも懐くというのは、なにかこう複雑な気分だ。 もし、契約の力が切れたりしたらシルフィードは変わらずに居てくれるだろうかとか色々考えさせられてしまう。 無論、そのあたりの事は表情には出さないが とりあえずプロシュートに言ってもどうにもならないのでシルフィードへ矛先を向ける事にした。 「きゅい!?お、おねえさま、なにをー!?」 無言でてけてけとタバサが近づくと両手に持った杖をシルフィードの額に何度かぶつける。 さすがにタバサの腕力で竜に大したダメージがあるはずもないが、唐突に行われた行為にシルフィードも面食らっている。 抗議も無視して杖と額がぺしぺしと小気味良い音を立てているが 叩かれる理由に気付いたのか少しばかり落ち着いたシルフィードが返してきた。 「……もしかしておねえさま、シルフィが楽しそうにおにいさまとお話してるから怒ってるの?」 シルフィードからすれば、プロシュートをそう呼んでいる事に大して意味は無い。 ただ単に、デルフリンガーが『兄貴』と呼んでいた事と、凄い力を持ってタバサの事を手伝ってくれそうな人という事でそうなっているだけである。 「別に怒ってない」 「きゅい?それじゃあなんで叩くのね?」 その疑問への答えは無い。というより、タバサにしては珍しく答えに窮しているようで少し考え込んでいたりする。 「…………」 「……………」 シルフィードとタバサの間に数秒の妙な沈黙が流れる。肝心のプロシュートはオレの方の質問に早く答えろよ。という具合なのだが。 「か、かわいい……」 と、そこに小さいシルフィードの声。心なしか声が震えているのは気のせいではないだろう。 「そんなおねえさまもかわいいのねーーー!」 その声に一拍遅れて思いっきりシルフィードが叫ぶ。 場所を変えていて正解だったというところだろうが、さすがに少し五月蝿い。大体高度3千メイル以上での発声は禁止してたのにもうどうでもいいのか。 幸い周りに人は居ないからいいようなものの、これにはさすがのタバサもシルフィードを睨み付けた。 「大丈夫!シルフィはおねえさまが一番なのね!きゅい!」 最高にハイ!というのはこの事だろうか。柴○亜○先生の絵柄なら間違いなく某ドクターT顔負けの鼻血を出しているはずである。 ぶっちゃけタバサの抗議なぞ全く意に介していない。 今にも『お持ち帰りぃ~~』と言わんばかりに悶えていたが唐突にタバサの横にその巨体を座らせると何かの呪文を唱え始めた。 『我を纏いし風よ。我の姿を変えよ』 聞きなれない。どちらかというと、メローネズコレクションの一つであった日本の漫画に出てくるようなやつだ。 風がシルフィードに纏わりつき、青い渦がそれを包む。 何らかの魔法だろうと思ったがプロシュートの興味は薄い。亀ですらスタンドを使うご時勢だ。 人語を解するシルフィードが魔法を使おうがそれは想定内の出来事である。 ……まぁ裸の女が現れるとまでは思っていなかったが。 そして、そのままタバサを押し倒した。 「このからだならおねえさまを潰さずにすむのね。きゅいきゅい」 そう言いながら頬ずりをしているが、傍から見ればただの変態だ。 とにかく離れさせようとタバサが小さくため息を付き、傍らに落ちていた杖を無言で掴むと横にあった頭を叩いた。 「いたい!?いたいよぅ。シルフィおねえさまに嫌われちゃったの?」 「そうじゃない」 「なら問題ないのね」 そういう事以前に離れろと言いたいのだが、タバサがそれを言うより先に別の所から突っ込みが入った。 「オメーらの漫才なんざどうでもいいんだがよ」 「きゅい?」 頭を掻きながらそう言ったが、なんかマジにどーでも良くなってきた。 もう全部纏めてブッ殺したッ!で綺麗サッパリ済ませてーな、とも思ったが耐える。 とりあえず、このクソ厄介な出来事の領収書は後で全部ルイズと才人に回す事にして一応納得しておく事にした。 そうでも思わないと多分、この先やっていけない。 「シルフィのとっておきなのに、おにいさまあまり驚いてないのね?」 「剣が口利いて、バカデカイ島が空に浮いてんだ。例えポルポの隠し財産が沸いて出ても驚きゃしねぇ」 何でもアリが前提のスタンド使いであるからには多少の事では驚きはしないのだが それ以上にブッ飛んだ世界に慣らされてしまったため、もうこの程度では驚かないようになってしまった。 なお、もう一度言うが今のシルフィードは裸である。それも召喚者とは違って出るとこは出て締まるとこは締まっている。 町を歩けば10人中9~8人は振り向くであろう事確実なのだが、どうやらそのあたりもどうでもいいらしい。 パッショーネの特攻隊とも言える暗殺チームに属していただけあって、元が竜であるしその裸ごときで動じるはずがないのだ。 というか、敵であるならこんな状態でも迷い無く攻撃する事ができるし むしろ、このクソ忙しい時にややこしい事やらかしてんじゃねーよという具合である。 まぁペッシなら話は別だし、メローネならディ・モールト!とでも叫んでそうだが。 そろそろ言葉でなく肉体言語で強制的に分からせてやろうかと思ってきたが、上の方からフクロウが飛んできてタバサの頭の上に留まった。 もうこの世界お馴染みの伝書鳩ならぬ伝書フクロウという事ぐらいは分かるので、押し倒されている状態のタバサより早く書簡を奪う。 「人形…七号?……意味が分からん」 ルイズん家である程度文字が読めるようになったが、人形七号と書かれていてもなんのこっちゃと理解できるもんではない。 そうしていると、物凄く嫌そうな声でシルフィードがその疑問に答えてきた。 「あの憎たらしい従妹姫がおねえさまを人形って呼んでて、七号というのは北花壇警騎士団の番号なの」 やけに『憎たらしい』を強調してきたので、基本的に人懐っこい方のこの韻竜にしては珍しくマジに従妹姫というのが嫌いなのだろう。 「花壇?汚れ仕事専門のチームにんな名前付けるたぁ随分と悪い趣味してんな」 「きゅい…チームじゃなくて騎士団なのね」 騎士団だろうとチームだろうと、あまり変わりはないので訂正する気にもなれないが、やはり貴族の感性というのは理解しがたいもんがある。 オレらなんざ護衛チームとか暗殺チームとかそのまんまだぞ?どういうこった北花壇ってのは。 そう思ったが言うと余計ややこしくなりそうなので口には出さない。 「で、結局のところ、こいつはどういう意味だ」 「う~……つまり、今頃あの小娘が『あの人形娘はまだなの?』とか言いながら召使をイジメてる頃だから……」 「早い話、任務ってわけか」 きゅい、と言いながら頷くシルフィードを見たが思わず溜息が出た。 ったく…次から次へとメンドクセーことばっか起こりやがる。 そう思ったものの、タバサ本人や家族の命にも関わる事なので本人がそれを無視する事はできない事ぐらい分かる。 かと言って、このまま何も行動しないというのも非生産的である。 「他にアテもねーし、ただ待つってのも性に合わねぇ。オレも行くぜ。第一そっちのが早く済むからな……」 「お金が無い」 「おねえさまはいつも新しい本を買い込むからそうなるのね。そんなのだからシルフィのご飯もままならないの」 そんなタバサとシルフィードのシビアな現実問題を聞いて顔を下に向けてプロシュートが少し笑った。 こいつマジにオレ達と同じか。と、思えてきたからだ。 何故なら暗殺チームも金が無かった! 収入源はシマを持たずボスからの仕事内容に見合わないような報酬のみで基本的にリゾットが必死にやり繰りしている状態だった。 組織に反感を抱いた原因の一つであるだけに、余計そう思える。 「ま……試用期間ってやつだ。金は気にしなくていいぜ」 「ガリア?なんでまた急に」 学園に戻ってオスマンを蹴り倒しているフーケにガリアに向かう事を告げたが、まぁ当然の反応というやつだろう。 「理由が必要か?」 「当たり前じゃないか」 適当な理由をでっち上げてもよかったが、タバサの任務付いてった時点で何かしらバレるし、何よりそこまで考えるのも面倒だ。 「そいつは元王族で知り合い連中に汚れ仕事でコキ使われてる。ついでに言うならこいつの使い魔も韻竜ってやつだ」 プロシュートがそう言った瞬間ゴフォ!と飲んでいた水タバサが盛大にむせた。 そりゃあ、あれだけ人が必死になって守っていた秘密をあっさりとバラされたのだから無理も無い。しかもよりにもよってフーケに。 「こいつも付き合わせるつもりだからな……。どうせバレるもんはバレる。なら先に言っといた方が余計な所でボロ出さなくていいだろうが」 さすがに文句を言おうとしたタバサもこれにはぐうの音も出ない。正論と言えば正論である。 フーケを置いていけばいいのだが、どうやら逃走防止のために連れて行くようでガッシリと肩を掴んでいる。 「いい加減、それ止めて……そんなに信用されてないのかね……?」 「オメーの実力は信用してやるが、まだ逃げないと思ってるわけじゃあねぇしな。 最初にオレら全員殺す気だったくせになに贅沢言ってやがる。なんならムショにでも入って待つか?ある意味一番安全な場所だぜ?」 「遠慮するよ……」 ブフゥ~~~というやたら暑苦しい息が聞こえてきたので全力で拒否したが、本気で疲れてきた。 「……他には誰にも言わないで」 しばらく思案してタバサがそう告げたが、それでも不安だ。先もあったようにフーケと言えば盗賊でそうそう信用できる相手ではない。 その様子に気付いたのか、これ以上無いぐらい簡単に、そして最大級に抑止力を持つ言葉でプロシュートが言い放った。 「気にすんな。万が一洩らしたりすりゃあどうなるかは……こいつが一番よく知ってるからよ」 ――畜生……知りたくなかった!聞かなきゃよかった!! 少し強められた手の力とその言葉に本気でそう後悔したが、もう遅い。 知りすぎると大概ロクな事が無いというのは世界を問わず共通の事象である。 これで人が居る場所でおちおち酒も飲めなくなってしまった。酔った拍子でこの事を喋ってこの物騒なヤツに狙われるなど洒落にもならない。 もうすっかりヤムチャと化した盗賊を放っておくと、キュルケがこちらに近付いてきた。 「よぉ。さっきの続きでもしにきたか?フーケならそこで腑抜けてるがさっきみてーな目に合いたくなけりゃあ別の場所でやれよ」 そう言うと、キュルケが笑いながら両手を広げる。 「冗談。それだけはもう二度と御免被るわ。先生から預かった物があるの。それを渡しにきたわ」 放り投げられた革袋を受け取ったが、感触で中身を理解した。 「何だ、この金は?」 一応中身を見たが、それなりの額が入っている。 今まで独身で研究以外の趣味のなさそうなコルベールなら出せてもおかしくは無い額だったが 理由も無しに金だけ渡されても乞食扱いされてるようで何か知らんがムカつく。 「それともう一つ、言付けがあって『アルビオンに渡るならミス・ヴァリエールとサイト君の事をよろしく頼む』だって」 「依頼って事か?こいつは。それより何であのハゲ、オレがアルビオン行くって事知って……オメーか」 現在、目標がアルビオンにある事を知っているのはオスマン、タバサ、フーケ、キュルケの四人。 となると、後は消去法でオスマンかキュルケしかいなくなり、さっきまでコルベールに付き添っていたキュルケが情報を漏らした事になる。 別に機密情報というわけではないのでどうこうする気もないが、さてどうしたもんかと少し考える。 この件に関しては、元々カトレアからも結構金貰って頼まれているからだ。 無論、余裕があれば、との条件付きだが元プロとして依頼の二重受領というのもどうかと思わないでもない。 まぁだが、金はいくらあっても困るもんではないし、くれるというのなら貰っといた方がいい。 「先にくたばってたりしてたら責任取らねーし、金も返さないがな。で、そっちはどうすんだよ。ここで匿うつもりか?」 「さすがにそれは限界があるだろうから、あたしの実家で匿う事にするわ。『自分達を庇ってくれた先生を手厚く葬るため』っていう口実もあるしね」 「で、その先生を殺ったオレは速やかに逃走を実行した方がいいってわけか?」 少量の皮肉と冗談で割った言葉だったが、どうやら本気に捉えられたようで珍しくすまなさそうにしている。 「ったく……たまに言うとこれだ。オレがそんな事気にするようなタマなわけねーだろうが」 普段、一般人が聞いたら冗談に思えるような事でも本気でやろうとしているのだから 急にそういう事を言われてもそう受け取れるはずがないという事を全く理解していないから余計性質が悪い。 ようやく何時もの調子を取り戻したのか目を細めて笑うと、少しタバサと二人にして欲しいと言ってきた。 それに関しては邪魔する気もないので、そうさせてやろうと、場を離れる事にした。 ……フーケをスタンドで無理矢理引っ張りながら。 「丁度いい機会だ。オメーにも『ギャングの世界』ってのを教えてやる。ありがたく拝聴しろよ」 「わたしは盗賊だって!なんなのさギャングって!!」 「似たようなもんだろーが。まずはおさらいだ。LESSON1『ブッ殺した』なら使ってもいいッ!」 「LESSON1からそれ!?」 そうしてキュルケとタバサの話が終わる頃にはギャング的教育LESSON4まで進み少しばかりやつれたフーケが地面に倒れ伏せていた。 ガリアの首都リュティス。 トリステインの国境から千リーグ程離れているがシルフィードならそう時間は掛からない。 と言っても、色々あったので到着は夕方ぐらいになってしまったのだが。 ハルケギニア最大の都市で人口三十万と言われてもプロシュートにはあまりピンとこない。 まぁネアポリスやヴェネツィアと比べればこの世界のあらゆる都市はド田舎という扱いなのだから仕方ない事だ。 無論、プロシュートとフーケは城に入るわけにもいかないので、ヴェルサルテイル宮殿近くの郊外の森で待機している。 ただ待っているのも暇なのでLESSONを再開しようとしたが これ以上やるとイルーゾォみたいに鏡の中にでも引き篭もりそうだったのでガリア関係の情報を引き出す事で手打ちにする事にした。 「ガーゴイル?オメーのゴーレムとどう違うんだよ」 「ゴーレムが命令をしなけりゃ動かなかったりしないのに対して、ガーゴイルは自分の意思で判断して動けるって事だね」 「自動遠隔操作型スタンド。ベイビィ・フェイスの息子みてーなもんか」 魔法で擬似生命を与えられた自立式の魔法人形。スタンド能力で擬似生命与えられた遠隔パワー型のベイビィ・フェイスと共通点はある。 厄介なのが、これも精度が高いと生物の見分けが付かないらしい。 老化が効かないのがこれまた厄介で、やはり息子を思い出させてくれる。 そうこうしていると上の方から翼の音が聞こえてきた。 シルフィードが小声でぶちぶちと文句を垂れているあたりどうやらロクな任務じゃなさそうだ。 「わざわざ呼び出しまで食らって受けた任務ってのは何だよ?暗殺か?」 「……いきなり暗殺ってあんた一体何やってたのさ」 任務=暗殺とかフーケですら考えはしない。相当ヤバい事に足突っ込んでた証拠だ。 「聞きたいのか?ま…別に隠すような事でもないんだがな」 「いーーや、聞きたくない。どうせロクでもない事やってたんだろ?」 「人の事言えねーだろ。専門はあ」 「それ以上言うなァーーーーーッ!」 大声を出してプロシュートの言葉を遮ったが、素面で暗殺が仕事だったとか聞いたらただでさえそうなのに胃に穴が開きそうだ。 「ルセーな…そんなたいした事ァねーだろうがよ……で、任務ってのは?」 色んな意味で限界突破しそうなフーケを放置して任務内容を確認するためにそう聞いたが返ってきたのは実に意外な答えだった。 「タマゴ」 「……あ?」 タマゴってのはアレか。あの卵か。割ると白身と黄身が出てくるどこにでもあるあの卵か。 プロシュートのそんな様子に気付いたシルフィードがさらに付け加えてきた。 「おねえさま、タマゴだけじゃ分からないのね。あの最悪姫は極楽鳥のタマゴを取って来いって言ったのね」 まぁこのブッ飛んだ世界の事だからただの卵ってわけでもないだろ。極楽鳥ってからには万病に効くとかいう効果があるのかもしれねぇ。 と一応の納得はしておいたが、ある事に気付いたフーケが口を挟んできた。 「……確か極楽鳥のタマゴって今の季節は旬の時期から外れてるはずだけど」 フーケの言葉の中にやたらくだらない内容の言葉があったような気がしたが、聞き間違いかと思って一応聞き返す。 「オメー今、旬とか言ったか?言ったよな?言ったな?どういうこった?ええ?」 「え?ああ、極楽鳥ってのは一年に二度タマゴを生むのさ。 幻の極楽鳥のタマゴって言われてて、その味のせいでかねりの値がする代物だよ。一度貴族から盗んだ事があるけど味は知らないね。売ったから」 このアマ今、味とか言いやがったか。つまり今回のタバサの任務の理由ってのは……。 「美食」 「『たかがわたしの美食のため』とか言っておねえさまを火竜の住処に行かそうなんて意地悪姫にも程があるのね!きゅい!」 そうタバサとシルフィードが言った瞬間何か知らないが、やたら小気味良い何かが切れたような音が聞こえたような気がした。 特に気にしないでいると突然フーケが襟元を引っ張られる。 「な、何するのさ!?」 そんな抗議も無視してずーるずると引き摺るように引っ張っていく。 何事かと思い無言で一定の方向を見ながら進んでいくプロシュートの視線の先の物を見たが……見た瞬間冷や汗が思いっきり流れ出た。 進行方向にはヴェルサルテイル宮殿があったからだッ! 「お前何をやろうとしているんだァーーープロシュート!行き先はともかく理由を言えーーーーーーッ!」 「命令出すやつが死ねばこんなくだらねー任務も消えるって事だよな?おい」 そう言い放ち無駄に靴音を鳴らしながら進んでいくプロシュートを見て思考が一層最悪な方向に向かっていく事を感じたが それでもまだ、まさか……?という思いだけは捨てたくはない。 「ストーーーーーップ!冗談よね?冗談って言って!」 「卵だぁ?そんなに食いてーなら極楽に送って死ぬほど食わせてやる」 引き摺られながらも必死に抵抗するが、地力の違いがある上にスタンドでも掴まれているため地面に後を残しながら引っ張られていく。 なんかもう、プロシュートの全身が黒い影のように見えるのはテンパりすぎての幻覚かなにかだろう。 「はーーーなーーーせーーー!大体あんた一人で十分だろ!わたしを巻・き・込・む・な!」 射程半径が200メイルもあるんだから仕掛けるにしても一人で十分だろ。 という事から出た必死の抗議だったが、無常にも次の一言で見事に撃破された。 「ガーゴイルっつーんだったか?その始末をオメーに期待してんだよ」 (こいつ本気かァーーーーッ!確実にわたしを巻き込んで正面からガリアと戦争おっ始めるつもりだッ!!) ――もう止めて!姉さんの胃のライフはゼロよ! ゼロどころか、もうスデにマイナスに突入しているだろ、という突っ込みは置いといて そんなお馴染みの幻聴まで聞こえてきたが、本人は今頃胸を揺らしながら家事に勤しんでいる事だろう。 確かに、こいつの能力ならメイジでも百人単位で相手できるだろうが、氷という致命的な対応策がある。 もしそれがバレでもしたら相当厄介だ。ガーゴイルとかもいるし。 捕まりでもしたら遠島どころじゃ済まない。死刑で済めばまだいい方だろう。 最悪考えられるありとあらゆる拷問を受けて晒し者という事も十二分にありえる事だ。 逃げられたとしても追われる事になる。その事に関しては今でもそうだけどハッキリ言ってレベルが違う。 並みのメイジの2~3人ならどうにでも始末できるが、国に喧嘩売った相手に並みのメイジが追っ手になるはずがない。 この国自慢の花壇騎士団総出で掛かられてはどうにもならないのだ。 いや、こいつはいいよ。杖なんかなくても能力が使えて自分の年齢をも自由に変えられる上に射程も長いから追っ手なんかどうにでもなる。 つまり貧乏くじを引くのは自分一人であまりにリスクが高い。 かと言って、逃げるという選択肢も無い。恐らく、逃げようとしたりしたら即老化を叩き込まれる。 宮殿が射程内に納まってしまえば確実にアウトだ。間違いなく自分も共犯に見られるハメになる。 唯一の望みはバレないように暗殺してくれる事だが、この男の性格的にも能力的にそんな事するはずがない。 Q.ある集団の中に紛れて暗殺対象が居ます。どうやって対象を始末しますか? という問題があれば間違いなく A.全員始末する。 と答えるようなヤツである。きっと……いや、絶対能力全開で正面から堂々と乗り込むに違いない。 一歩、また一歩と宮殿に近付く毎に絶望感がフーケを襲っていくが唐突に歩みが止まった。 「ダメ」 と、タバサが首を横に振りながらそう言ったからだ。 「何だ?この際、オメーの仇ってのも含めて纏めて始末してやるんだがよ」 最初から広域老化を叩き込む。本来のグレイトフル・デッドの大前提だ。 広範囲で巻き込むなら、ついでに始末してやれば丁度いいという具合である。 「わたしが欲しいのは、伯父の首一つ。他はいらない」 そう小さく呟いたタバサを見て、こいつはオレ達とは違うわ。と前に思った事を撤回した。 暗殺チームなら、目的のためなら必要があれば一般人だろうと遠慮なく巻き込む。 無論、進んで攻撃したりはしないが当時はそれだけ必死だった。 「それに、本当なら自分一人の手で仇を討ちたい」 続けてそう言ってきたが声こそ小さいが強い意志を持っている。是非ともペッシに聞かせてやりたい言葉だ。 「つまり、この仕事やってんのは自分を鍛えるためってか?」 その言葉に頷いたタバサを見て、今度は逆に呆れてきた。 過酷な環境の任務をこなしていけば自然と地力も上がり鍛えられる。 一見良い事のようにも思えるが、実際自分達自身がそうだっただけに死ぬ確率の方が遥かに高い事ぐらいは承知している。 それを、このちんちくりんの小娘は昔から当然のようにやっているわけだ。 「ったく……オレの負けだ。依頼の条件って事にしといてやる」 そう言いながらフーケから手を離しかき上げるようにして額の右半分に手をやる。 足元でフーケが小さく『助かった……』と呟きながら荒い呼吸をしているのは気のせいではないだろう。 だが、見た目十二~三のガキに言い負かされっぱなしではない。 タバサに近付くと、その頭を勢いよく叩く。 それと同時にパァンと良い音がし、タバサの頭がぐらぐらと揺れている。 「一人で殺れると思うだけなら、オレらだってとっくにボスを殺れてんだよ。 大体、ボスを相手にする以前に……ブチャラティどもに負けちまったからな」 直接敗れたことを知っているのはホルマジオとイルーゾォだけだが 性格や能力、なにより数の少なさから見て他の連中も一人でブチャラティどもを相手にしたはずだ。 甘く見ていたわけではないが、暗殺チームに属するだけあって単独行動向けのスタンドが殆どだったというのが最大の理由か。 過程として他の連中も誰かと組んで仕掛ければ結果は変わっていたかもしれない。 例えば、イルーゾォが鏡の中へ引きずり込み、無防備な相手を対スタンド戦闘能力の低いリトル・フィートで攻撃し尋問なり始末なりをする。 または、ベイビィ・フェイスの息子やギアッチョが攻撃を仕掛け、敵が気を取られている隙にリゾットがメタリカで確実に始末をする。 と、組み合わせ次第で戦闘力は何倍にもなる。 もっとも、過去の事をどう考えようとも仕方の無い事だが、これから先の教訓としては覚えておいて損は無い。 特に、これから同じような事をやろうとしているタバサにとっては。 「おにいさまの言うとおりなのね。この前だって、おねえさまの味方してくれる人が現れたのに無視して追い返したし」 「オメーみたいなガキが肩肘張りすぎなんだよ。ちったぁ力抜いた方が身のためだ。くだらねー事はこういうヤツに押しつけりゃいいんだよ」 「今、少しでも良い事言ったなって思った事を全力で撤回させてもらうよ」 こういうヤツと言って指差したのは、もちろん今現在、地面に蹲っているフーケの事だ。 あくまで自分はくだらない事に関わりたくないというあたり相変わらずベリッシモ自己中である。 「……覚えておく」 その相変わらずの無表情で返してきた答えに、どこまで分かってるんだかな。と半信半疑だったが、まぁ今はこれでいい。 とにかくそういう事なら、このくだらねー任務をさっさと済ませてこっちの仕事を片付けねばならない。 かったるそうにシルフィードに乗り込むと、とりあえず当面は火竜を何秒ぐらいで老死させられるかを考える事に決めた。 臨時北花壇騎士御一行――地獄の(何にとっての地獄かは知らないが)火竜山脈ツアーに出発。 イザベラ――危うい所で老死を回避。ただし本人は何も知らない。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2200.html
ゼロと使い魔の書-01 ゼロと使い魔の書-02 ゼロと使い魔の書-03 ゼロと使い魔の書-04 ゼロと使い魔の書-05 ゼロと使い魔の書-06 ゼロと使い魔の書-07 ゼロと使い魔の書-08